パリ.元諜報員たちが,謎の雇い主によって,中身も不明なあるブリーフケースを盗み出すという任務のために集められた.チームの顔触れは,戦略に通じたアメリカ人サム,フランス人コーディネーターのヴァンサン,東欧圏の電子工学の専門家グレゴー,アメリカ人の腕利きのドライヴァー,ラリー,武器の専門家スペンス.指令者は謎めいた女ディエドラ.彼女の指示の元,作戦は着々と進められたが,挑発的な態度をとっていたスペンスは経験の浅さをサムに見破られ,追い放たれた…. |
フランスの犯罪組織やロシアンマフィア,IRAの工作員が鎬を削るプロフェッショナリズムが杜撰に描かれた作品.赤穂浪士の恥と道徳の両義からなる悲哀物語を本作はモチーフにしているが,"サムライジオラマ"を製作する偏屈親父の垂れる蘊蓄は,「武士の心,戦いの歓び,それ以外に自分以外に仕えるべきものがあってそれを失い忠誠心が死んだ時,新しい主に仕えることも出来たが武士の誇りを選んだ」というもの.
これでは,日本古来の武士道の説く精神「恥はすべての徳,善き道徳の土壌」を半分も理解することはできないだろう.政治情勢を背景に骨太のアクション作品に定評があったジョン・フランケンハイマー(John Frankenheimer)は,1990年代後半に流行したCGを本作に採り入れず,1970年代を彷彿とさせる演出を頑なになぞっている.
単純に,その好き嫌いが賛否となるが,なんといっても古臭さが先に立ってしまう.プジョー406・605,シトロエンXM,メルセデス・ベンツ450SEL6.9,BMW5シリーズなどがパリ市街地で劇的カーチェイスを展開し,各車種の走行音を個別に録音,その後映像に合わせるという凝りようだが,それ自体にも魅力はさほどない.
長すぎるチェイスは逆に眠気を誘う.安定感のあるロバート・デ・ニーロ(Robert De Niro)は流石というほかないが,アメリカに進出して間もないジャン・レノ(Jean Reno)が彼と対峙するいくつかのシーンは,偉丈夫デ・ニーロに対する畏敬からか,素で萎縮の表情を隠せていないのが目立つ.元アマチュア・レーシングドライバーの経歴をもつフランケンハイマーの職人的こだわりが,作品の持ち味に昇華しきれなかった凡作である.
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原題: RONIN
監督: ジョン・フランケンハイマー
122分/アメリカ/1998年
© 1998 United Artists