■「マレーナ」ジュゼッペ・トルナトーレ

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 イタリアのとある小さな村.村一番の美しい女性,マレーナは,その美しさ故に,村中の男の好色な関心とその妻たちの妬みを一身に受け,常に悪意ある醜聞にさらされていた.しかし,彼女の一番の信奉者である少年レナートだけは,彼女の知られざる真実を知ることになる….

 チアーノ・ヴィンチェンツォーニ(Luciano Vincenzoni)の原作を映画化する時期を,ジュゼッペ・トルナトーレ(Giuseppe Tornatore)は待ちわびていたという.映画監督としてのキャリア形成以前に,トルナトーレの思い描く“マレーナ”を体現できる女優の出現を待っていたということだ.そのイメージにかなう要件,圧倒的な美貌,肉感的な肢体とともに物憂げな濡れた瞳をもち,薄幸な佇まいを魅せる女優でなければならない.清潔過ぎても淫靡過ぎてもいけないという繊細さもある.モデル業で名を上げ,女優としての路線を模索していた30代半ばのモニカ・ベルッチ(Monica Bellucci)は,まさにマレーナにうってつけだった.

 ベルッチを起用したトルナトーレの確信には,誰も異議を唱えることはないだろう.シチリア島のセックス・シンボルとしてしか見なされなかった女性が寡婦となった途端,村の男たちはマレーナの独り寝の寂しい閨を狙って押かけ,かたや女たちは,男たちの視線を釘付けにするマレーナの美貌に,醜い嫉妬から迫害を加えてくる.その無惨な顛末を,12歳の少年レナートだけが傷心しながら見守り続ける.マレーナ寡婦となるまでは,レナートも彼女の官能に刺激される1人に過ぎなかった.しかし,マレーナの後を尾け,家を覗き見る衝動を抑えられなかったレナートが見たのは,戦死の通知が届いた夫へ不変の愛情を捧げる1人の女性の姿であった.

 1940年代のシチリアで未亡人となった美女が,好奇と愛欲,嫉妬,いわれのない非難を一身に受けながら,独りで生きていくためには娼婦に身をやつすしかなかった哀れ――あろうことかナチス将校までも客にとらなければ生活できないマレーナの時代は,終戦とともに残酷に終焉する.ナチス相手の娼婦は,戦後は「売国奴」として断罪され私刑が加えられた.戦争が終わると,ただちに女たちは衆人環視の広場にマレーナを引きずり出し,彼女の全存在を否定するかのような凄惨な暴行を加える.それをつぶさに目撃したレナートは,結局マレーナに対し何の力にもなれない無力感を味わうが,ある出来事をきっかけに勇気を振り絞り,彼女を誰よりも支える手助けができた.

 彼がたった1度だけマレーナと言葉を交わす最後のシーンは,イタリアのファシズムと解放の時代に生きた弱々しいはずの女性の悲しみやしたたかさを,誰より深く理解しようとした少年の通過儀礼,その本当の終わりを示すものだ.少年時代の甘酸っぱい記憶を,それだけで終わらせない鮮烈な成長の軌跡として,すべてのシーンが結晶する場面である.モニカ・ベルッチは,本作以後「イタリアの宝石」の称号を確たるものにした.小粒ではあるが,長く記憶にとどまる珠玉の作品である.

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原題: MALENA

監督: ジュゼッペ・トルナトーレ

92分/イタリア=アメリカ/2000年

© 2000 Miramax Films