■「白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々」マルク・ローテムント

白バラの祈り -ゾフィー・ショル、最期の日々- [DVD]

 1943年のミュンヘン.“打倒ヒトラー”を呼びかける組織「白バラ」のメンバーであるゾフィーと兄ハンスは,大学構内でビラをまいているところを見つかり,ゲシュタポ将校に連行される.そこで尋問官モーアの取り調べを受けるが,無罪であることを主張.モーアはゾフィーを信じかけるが,証拠が発見される.ゾフィーは自分は信念によって行動したことを認め,密告を拒否した.死刑が宣告され,ゾフィーに最期の時間が迫っていた….

 ュンヘン大学学生ハンス・ショル(Hans Scholl)とその妹ゾフィー・ショル(Sophia Magdalena Scholl)を筆頭に,3人の学生及び同大学教授クルト・フーバー(Kurt Huber)は1942年6月から7月にかけて,反ファシズム運動「白バラ」のビラを大学構内,さらに各地へ配布した.スターリングラードでの敗北,イギリス空爆の不首尾が明らかになりつつある時勢では当然,このようなナチスへの抵抗運動を弾圧する必要があった.1990年代,旧東独地区に保管されていたゲシュタポによるゾフィーの尋問調書,関連の捜査・逮捕・処刑記録が公開された.

君らは学生の特権を濫用している.戦時下で勉強できるのは政府のお陰だ.民主主義の世なら私は仕立て屋どまりだ.警察官になれたのはフランス占領のおかげだ.さもなければせいぜい田舎の巡査だろう.ヴェルサイユ条約が生んだインフレと失業と貧困をヒトラー総統が解決してくれた

 法が99日の猶予を定めているにもかかわらず,逮捕からわずか5日間で処刑されたショル兄妹の様子が記録されていた.ゾフィー尋問の担当となったゲシュタポ取調官と彼女の対峙は,ゾフィーの毅然としたリベラルな無党派思想と,ナチズムの国家社会主義の論理で生きる官憲の対決そのもので,本作が労を多とする場面である.「白バラ」抵抗運動は,「知識人や教会関係者や無名の市民を基盤」として,「ドイツにおける良心の存在」を証明しようとした"良心の証"と呼ばれる運動であり,民衆に反ナチスを広く呼びかけることを目的としていた.

 反逆罪に問われる立場に追い詰められたゾフィーは,官憲の論理に呑まれることなく,徹頭徹尾「人間の良心と公正」に反する体制に敵対する.彼女に処刑を言い渡すのは,司法の独立性が崩壊した体制で,独裁者に仕えた「血の裁判官」ローラント・フライスラー(Roland Freisler).被告を徹底的に貶め,感情的に罵倒して死刑即時執行を強行した.戦う民族と国家を守るべき人民法廷には,唯一の刑,すなわち死刑しか選択はありえないとの趣旨から「我々は法曹の装甲軍団だ」と喚き散らす裁判官を前に,ゾフィーは「今にこの場所にあなたが立つことになる」と切り返して法廷内は騒然となる.

 「白バラ」の運動的意義はことさら戦後に強調される.「第三帝国」を自称したドイツがヨーロッパを侵した同時期,ドイツ内部で「良心の狼煙」が挙げられたことを自省的に評価する格好の材料となり,いわば魔女裁判を認めた形をとっている.ゾフィーが訴えた「制定法の不法」に対する良心は,戦後ドイツ連邦共和国憲法(基本権)第1条「人間の尊厳の不可侵」,第9条「結社の自由保障.但し目的が憲法に違反しない限り」に明文化されている.

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原題: SOPHIE SCHOLL - DIE LETZTEN TAGE

監督: マルク・ローテムント

121分/ドイツ/2005年

© 2005 Broth Film,Goldkind Filmproduktion