非情の掟に生きる父子の宿命と悲哀を抑制のきいたタッチで描きだす骨太イタリアン・ノワール.ドイツの田舎町でホテル・レストランを営むロザリオは,妻と幼い息子と満ち足りた暮らしをしていた.しかしある日,2人のイタリア人の若者ディエゴとエドアルドが訪れたことで,平穏な生活は一変する.ロザリオは,ディエゴが15年前イタリアに置き去りにした実の息子であることに気づくが…. |
南イタリア,カンパーニャ州ナポリの「カモッラ」は,1980年代から都市の固形ゴミ問題不正処理で利益を上げている暴力組織である.ゴミ処理ビジネスを牛耳るうま味を手離さないよう,2008年にはゴミ焼却施設の建設に反対してゴミ回収をボイコットした際には,市街地に不法投棄のゴミが散乱した.有害物質を含むゴミ焼却で,煙が立ち込めるナポリ北部は「死の三角地帯」と呼ばれるようになっている.
ドイツの田舎町でホテル・レストランを営むイタリア人ロザリオの前に現れた若者2人(ディエゴ&エドアルド)は,カモッラから,ドイツでのゴミ処理施設建設にからむ要人暗殺の命令を受けていた.この地で静かな満ち足りた暮らしをしていたロザリオは,思いがけず遭遇したディエゴ――15年前に棄てた実の息子――に心を乱されるが,それ以上に危惧したのは,カモッラがドイツの田舎にまで侵奪してきたことである.
イタリアのカラブリア州やナポリでは,ンドランゲタ,カモッラといったマフィアが裏で飲食業界の50%以上を支配する.その暗澹たる予測が瞬時に立った時,血を分けた息子ディエゴを手にかけようとも,この地で新たに築いた家族を守らなければならない,とロザリオは決断する.15年前のイタリアでロザリオが犯した過失,組織からの逃亡の顛末は,不明瞭なまま現在の“穏やかな暮らし”の危機が静かに描かれる.ここに漂うのは,イタリア的フィルム・ノワールの香り.ファム・ファタールが不在であることは味気ない.
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原題: UNA VITA TRANQUILLA
監督: クラウディオ・クペッリーニ
100分/イタリア/2010年
© 2010 Acaba Produzioni