■「絞殺魔」リチャード・フライシャー

絞殺魔 [DVD]

 1962年,ボストン.一人暮らしの老女が襲われて絞殺される事件が連続する.市警察のディナターレらは町中の異常性欲者を尋問・検挙するが成果は上がらず,犠牲者は増えるばかり.しかも7番目以後の犠牲者はうって変わって若い女性ばかりとなり,ボストン市民は恐怖のどん底に突き落とされる.州検事局は特別捜査本部を設けて検事総長補佐のボトムリーに捜査に当たらせることにするが….

 プリット・スクリーン(画面分割で多場面の同時進行を示す)が一般化する以前,リチャード・フライシャー(Richard Fleischer)は,本作でその手法を用いて「ボストン連続婦女暴行殺人事件」を取り上げた.猟奇殺人を繰り返した元軍人アルバート・デサルヴォ(Albert DeSalvo)は,ボストン・ストラングラー(ボストン絞殺魔)と呼ばれた.ボストン警察の見当外れの捜査,とりわけ初動捜査の不備が,映画ではセミ・ドキュメント・タッチで長々と語られる.

 別件の強姦事件で逮捕されたデサルヴォは,被害者の正確な数,真犯人でなければ知り得ない情報を供述したため,ボストンの女性を戦慄させた絞殺魔と広く認識されることとなった.だが一連の事件では物証と呼べるものがほとんど残されていなかった.司法取引により,「責任能力が否定された場合にのみ,ボストン・ストラングラーの自白を認める」という条件が交わされたという.結局デサルヴォには責任能力が認められ,終身刑が言い渡された.

 ジェロルド・フランク(Gerold Frank)の原作『絞殺―ボストンを襲った狂気』では,デサルヴォが多重人格者であった説を有力視した.映画化にあたりフライシャーも全面的に同意する形で,後半にはデサルヴォ主観の精神的混沌を強烈に印象付ける.若かりし頃は二枚目俳優で人気だったトニー・カーティス(Tony Curtis)は,デサルヴォの「再現」に全力で挑み,忘れ難いパフォーマンスを見せた.

 ただし,本作は,係争中のデサルヴォに対するイメージを早々に確立してしまっている.その段階で当事者本人の主観をまことしやかに描いた点は,いささか懸念される.実験的な作品を世に問うには,時宜に留意する必要があるということだろう.ボストン連続婦女暴行殺人の真相は追及されないままに,デサルヴォは収監生活を送ったが,1973年11月26日,ウォルポール刑務所の独房内で何者かに殺害されているのが発見された.

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原題: THE BOSTON STRANGLER

監督: リチャード・フライシャー

119分/アメリカ/1968年

© 1968 Twentieth Century Fox Film Corporation