▼『見るということ』ジョン・バージャー

見るということ (ちくま学芸文庫)

 すべての芸術は生の文脈とのかかわりを持つ‥‥写真が発明されて以来,人間はさらに多くの膨大なイメージに取り囲まれてきた.そこでは,「見る」という行為が人間にとって不可避な事態として浮かび上がってくる.それは自らの生の経験の蓄積を,歴史・社会・文化と構造的に対峙させることでもあった.ザンダー,ベーコン,マグリットらの作品を通して「見るということ」の地平から,人間の本性と文明にまで肉迫する.強い影響力を持つ新たな美術批評の形を模索していった著者による,写真を学ぶ人,美術を語る人,必携の美術評論集――.

 術作品に対する価値判断と評価が,一般的に美術批評の根幹をなすものだが,「見る」という行為と生の文脈とのかかわりを持つ芸術の接点をどう考えるか.

 本書は,「自らの生の経験の蓄積を,歴史・社会・文化と構造的に対峙させる」意義を,イメージやパースペクティブに及ぶ文化的階級構造の観点から論じる.解りやすい例としてあげられるのは,アウグスト・ザンダーAugust Sander)が1914年に発表した写真《若い農夫たち,ヴァスターヴァルト》の解説.

 職業的支配階級の衣服として発達したスーツの権威,クラス・ヘゲモニーの解釈はナイーブな面白さ.マルクス主義の芸術批評の階級的史観を,垣間見ることができるエッセイ集である.

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Title: ABOUT LOOKING

Author: John Berger

ISBN: 4480089306

© 2005 筑摩書房