1991年,湾岸戦争下のL.A..70年代のヒッピー生活を引きずる中年独身男デュードことジェフ・リボウスキはある晩,ふたりのチンピラに襲われる.女房の借金を返せと言うが,全く身に覚えのないこと.チンピラは同姓同名の富豪ビッグ・リボウスキと彼を間違えたのだ.怒りがおさまらないデュードは唯一打ち込んでいるボウリングの仲間のウォルターとドニーにことの次第を話す…. |
何の教訓も垂れずに,むしろそんなものを軽蔑しているかの風だが品性下劣ではない.そんな映画も貴重である.どんな役どころを演じることになっても,どこか本作のジェフ・リボウスキの影をチラつかせるジェフ・ブリッジス(Jeff Bridges).同姓同名のため大富豪に間違われたヒッピーくずれの中年男,その緩い性格描写が,ブリッジスの生来の雰囲気とマッチしているからかもしれない.
ベトナム帰りの暴走男ウォルター,愚鈍だが気のいいボーリング仲間ドニーの不憫さ,富豪の義理の娘でフェミニストにして前衛アーティストのモードの破廉恥ぶり,ポルノ映画界の大立者トリホーンの静かな威圧感――これはコーエン兄弟(Joel Coen & Ethan Coen)によるスラップスティック・コメディ.よい意味で種々雑多な「バカ」が世界の住人であること.それ「だけ」に快哉を叫ぶ気持ちのよさを許容できれば,実はかなり愉しめる.
公開からこれほどの時間が経過しても,熱狂的なファンが毎年「リボウスキ・フェスティバル」を全米どこかの都市で開く.リボウスキの愛飲酒ホワイト・ルシアンを飲みながらの歓談,劇中さながらのボーリング大会が催されるという.物語の人間関係は思わせぶりだが,全篇の覇気のなさは,ハードボイルドな謎解きなど一切無用と宣言しているようなもの.
「深夜に見ると盛り上がる映画」と評され,息の長い支持を獲得できたのは,愛すべきキャラクターの悶着が無邪気なロマンチシズムとなって展開されるためだろう.律儀にジャンル分けするほどの神経も使わなくていいぜ,と変人たちが語りかけてくるような緩やかさが心地よい.
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原題: THE BIG LEBOWSKI
監督: ジョエル・コーエン
117分/アメリカ/1998年
© 1998 Gramercy Pictures