■「インファナル・アフェア」アンドリュー・ラウ，アラン・マック

　18歳の二人の青年は，皮肉にもそれぞれ同時期に，警察とマフィアに身分を隠して潜入することを命じられる．そして，10年後．覚せい剤勢力の一斉検挙をもくろんでいた警察は，マフィアに潜入するヤンから大きな麻薬取引が行われるとの情報を受ける．緊張感みなぎるなか，水面下での捜査が展開されるが，警察に潜入するラウからもその機密情報がマフィアに流れ…．

　善悪の彼岸に立つ2人の男は，四面楚歌という共通項でくくられていた．「香港ノワール」の記念碑的作品の呼び声も高い本作だが，追う者と追われる者の対立構造をメビウス状にして表現したことが何より画期的だった．警察上層部に侵入した若きマフィアと，マフィアのボスの寵愛を受けるほど信頼された捜査官．この映画で唯一の欠点，チープな音楽も気にならないほど，緊張の張り詰めた世界観が素晴らしい．

　香港マフィアの構成員ラウは，サムの指令で警察学校に入学．一方，警察学校首席であったヤンは，組織犯罪課（OCTB）ウォン警視に認められ，マークしていたマフィア組織に潜入，サムに接近．やがて，ラウは内部調査課（CIB）の課長に昇進，ヤンはサムの右腕になっていた．覚醒剤の大規模取引が行われることを掴んだOCTBは，取引現場の特定を急ぐ．しかし，ラウの妨害で検挙は失敗に終わり，またヤンの情報提供により，取引も未遂に終わった．かくて，マフィアとOCTBの両方に「ネズミ」が入り込んでいることが周知のこととなり，ヤンはラウを，ラウはヤンの存在を突き止めるよう命令が下された．

　キャスティングの妙は，おそらく異論のないところだろう．寡黙で影のあるヤンをトニー・レオン（梁朝偉），ぎらつくような眼差しのラウはアンディ・ラウ（劉徳華），冷酷無情なマフィアのボスにエリック・ツァン（曾志偉）．名優アンソニー・ウォン（黄秋生）の渋味あるウォン警視も忘れがたい．彼らは，眼光と後ろ姿だけで役柄を語っている．自我を圧殺することを宿命づけられた若き両雄が何より光っている．勧善懲悪になりようのない世界で紡がれる共食いの構図――これを厳守したことが，硬質なノワールを呼び込んだ．それは救いなき無間地獄の無常観に接続していく．

　本作のオリジナル脚本は，アラン・マック（Alan Mak）がアンドリュー・ラウ（Wai-keung Lau）に持ち込んだ初稿から始まった．4,000万香港ドルをかけ，構想3年，撮影4ヶ月を要した．完成後，ドリームワークス，パラマウント，ソニー・ピクチャーズ，20世紀フォックス，リージェンシー，ワーナー・ブラザースがリメイク権を争奪し合い，ワーナー・ブラザースが獲得．その結果，豪華俳優陣で換骨奪胎を狙った小賢しい作品が出来上がった．むべなるかな，虚ろと待ち構えるばかり．

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原題： INFERNAL AFFAIRS

監督：アンドリュー・ラウ，アラン・マック

102分／香港／2002年