■「フラッシュダンス」エイドリアン・ライン

フラッシュダンス [Blu-ray]

 昼は溶接工場,夜はクラブのダンサーとして働くアレックス.彼女の夢はいつかプロのダンサーとなって有名になること.ダンスへの情熱なら誰にも負けない自信があったが,オーディションの会場でまわりの雰囲気に圧倒され,その場から逃げさってしまう….

 作という歓喜.挑戦のマイルストーンが一つの勝利を収める寓話である.19歳の女性で昼は溶接工,夜はプロダンサーを目指し猛特訓の日々.日本においては天の岩度の前でアメノウズメノミコトが哀楽交えてエロスの舞を披露してから,豊穣の願いや民俗風習のピックアップが“ダンス”概念に先駆け成立していた.すなわち「舞踊」である.しかし現代的には,ダンスはエクササイズやダイエットの意味合いとともに,自己表現手段の意義を確立してきたのも事実.その火付け役となった映画は,紛れもなく本作であった.

 ピッツバーグ・ダンス・アンド・レパートリー・カンパニーのオーディションに参加したアレックスは,軒並み競争相手がクラシック・バレエの徒であることに圧倒される.引き換え,自分は我流のジャズ創作ダンスしか取り柄がない.下唇を噛むジェニファー・ビールス(Jennifer Beals)の健気さが眩しい.4,000人のオーディションで選ばれたビールスは,当時イェール大学の現役学生だった.本作が実質デビューとなった彼女の表情は,初々しく多彩.

 印象を強めるのは,エイドリアン・ライン(Adrian Lyne)が意図的に短いカットを繋げてシークエンスを構成したためである.その効果は,演技経験のないヒロインの緊張を軽くし,フィルムにMTVのような軽快なテンポを生む.光と影のコントラストによる演出を特徴とするラインの手法は,本作でも生かされている.スモークを焚いた逆行のシルエット.水とガラス,光のコラボレーション.それらは「ナインハーフ」(1986)の官能性を思い起こさせるものだが,本作では素朴なビールスとの好対照が生まれている.

 荒唐無稽に思える荒削りなダンスも,開き直りと無我の境地で審査員もはっと息を呑む.彼らに身を乗り出させることに成功したアレックスは,オーディションに合格したのか否か.それをお預けにしたラストがむしろ清々しい.私はやり切った.私だけのダンスを.そう確信するアレックスの横顔は,テーマ曲《WHAT A FEELING》の余韻冷め遣らぬ快挙の証明である.オーソドックスな基礎を凌駕する情熱と創造性.勝利を手にした爽やかなカタルシスをもたらしてくれる.

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原題: FLASHDANCE

監督: エイドリアン・ライン

95分/アメリカ/1983年

© 1983 Paramount Pictures