▼『李白詩選』李白

李白詩選 (岩波文庫)

 世紀,盛唐の詩界に忽然と現われ,中国文学史に不滅の光を放ちつづける太白星,李白(701-62).著名な絶句・律詩・古体詩のほか,新たに散文詩として賦と序を加え,そのリズム感あふれる主要作品120首を精選.最新の研究成果に基づく訳注により,奔放にして繊細な李白の詩の精髄が心ゆくまで味わえるようにした――.

 白の誕生1300周年を祝して,中国国家郵政局が制作した「李白詩選」と題された特別な郵便葉書がある.中国詩歌史において,杜甫と肩を並べる巨星である李白に敬意を表し,この特別な葉書には李白の著名な絶句,律詩,古体詩に加えて賦や序が収められ,彼の主要な作品120首が精選されている.李白の詩は,その中に宿る自然の美や人生の哲学に触れ,読む者に感動と啓示をもたらす.

 絶句においては,抒情性が溢れ,律詩ではその繊細な音韻が耳を引きつける.古体詩では,李白が古典の形式を新たな視点から解釈し,独自の情熱を込めて詠った作品が鑑賞できる.長江の絶景,采石機にて月夜に舟を浮かべた李白は,酒杯を手に水面に映る月を掴もうとしたが,その瞬間,酔いが影響し転落してしまい,結局は溺れてしまった.これが後に「捉月伝説」として語り継がれることとなった.

 対照的に,杜甫は湘江の船旅中に県令から贈られた牛肉と白酒をしたたかに堪能し,その夜には世を去ったとされる.これが杜甫の「牛肉白酒伝説」として知られている.どちらの逸話も悲痛であり,その死に方は無惨なものであるが,詩仙・李白と詩聖・杜甫は,共に酒と娯楽を愛し,その生涯を彩った.杜甫李白を敬い,一方で李白は孟浩然に崇敬の念を抱いていた.両者ともに旅と酒を愛し,その詩には愁いや花鳥風月が織り交ぜられている.

 李白は豪放かつ超俗的な雰囲気を持ち,その放浪は杜甫よりも遥かに広範囲に及んでいる.李白の絶句や雑言古詩,七言絶句には大胆で美しい表現がみなぎり,その鮮烈な感性は圧倒的である.本書では,詩型ごとに原文,読み,意訳,註の構成がなされており,李白の作品が時間の経過とともにどのように変化していったかを追うことは難しい.唐代の詩の年代特定が一般的に困難であることを考慮すれば,このアプローチは妥当といえるだろうか.

++++++++++++++++++++++++++++++

原題: 李白詩選

著者: 李白

ISBN: 4003200519

© 1997 岩波書店