内戦が続くコロンビアで,シモンの父は非合法栽培のケシ畑で働いていた.ある日,父の後をつけてケシ畑に迷い込んだシモンは,一帯を取り仕切る麻薬カルテルのボスに見つかってしまう.内戦,虐殺,麻薬,環境汚染,貧困.切実な社会の中で生まれた少年と少女の切なくも美しい物語…. |
コロンビアは,地政学的にはペルー,ボリビア,メキシコ,アメリカを結ぶ中継点である.コカの一大産地ペルーとボリビアから,年間136億ドルから484億ドルに及ぶアメリカ違法薬物の90%以上が,コロンビアとメキシコ経由でアメリカに流通しているという.二大派閥――カリ・カルテルとメデジン・カルテル――の麻薬戦争から自警団による幹部殺害,1994年の大統領選挙資金の汚染などを経て,麻薬カルテルはカルテリトと総称される小型組織に分散している.
本作の物語の年代は定かではないが,小さいコミュニティ一帯を取り仕切り,ケシ畑を管理するボスの裁量権が大きい.このことから,二大カルテルが衰退し,解体した1990年代後半以降を描いているのだろう.息子思いの父がケシの非合法栽培に関与していることは,ヤミの麻薬製造が庶民の暮らしを侵食する度合いが,以前より大きくなったことを窺わせるものだ.さらに,これはカリ・カルテル時代の名残りが色濃く残されていることも意味している.
メデジン・カルテルが強いヒエラルキー構造でコカの生産農家,加工業者,販売業者に支えられたゲリラ的犯罪組織であったのに対し,カリ・カルテルは酪農組合に似たシステムで麻薬取引,マネーロンダリング,収賄を行う柔軟なカルテルを作り上げたからである.政府派民兵に襲撃された9歳の男児シモンと,ケシ農場隣家の娘ルイザが手を携え,目撃するケシ畑.人間の悲哀と欲望を吸い上げて花をつけ茂るケシが,遠目からも涼しく揺れる.その場面だけが幻想的で,余韻を残す.
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原題: FIELD OF AMAPOLAS
監督: フアン・カルロス・メロ・ゲバラ
86分/コロンビア/2012年
© 2012 Sangre Films