■「U・ボート」ウォルフガング・ペーターゼン

U・ボート ディレクターズ・カット [Blu-ray]

 1941年,ナチス占領下のフランスの港町ラ・ロシェルの酒場.ドイツ兵たちで賑わうその中に陸での最後の夜を楽しむUボートの乗組員たちがいた.最年長の30歳である艦長をはじめ,乗組員たちは皆20代前半.初めてUボートに乗り込む報道部記者ヴェルナーは22歳の若さだ.翌日の早朝U96で出発した乗組員は,艦長を含めて総勢43名.艦長は,まずこのU96が水深何メートルまで可能かをテストした.水深計は160メートルを指した.夜,ヴェルナーは興奮さめないままに乗組員たちの話に耳を傾けていた.そんな日々が何日か過ぎた….

 二次大戦中,ウィンストン・チャーチル(Sir Winston Leonard Spencer-Churchill)をして「最も恐れるべきはUボート」と言わしめたドイツ潜水艦“Uボート”.英米連合軍の商船2603隻,空母2隻,戦艦2隻を撃沈する成果を上げた.しかしドイツ側の被害も大きく,1,131艦の67%を失い,乗組員4万人中,3万人は海中に没した.捕虜になった軍人は5,000名を数える.潜水艦内部という特異な閉鎖空間と,戦時の急迫.極度に狭い艦内で繰り広げられる兵士の雑居生活.そこには,荒々しい男たちのむせ返るような生活臭が充満し,水圧をコントロールしながら潜行する潜水艦には魚雷が積載されている.

 圧力で吹き飛ぶボルト,ディーゼル機関の噴出する蒸気,静けさの中に無常に響き渡るソナー音,浸水と酸欠の危機――80年代以降の潜水艦映画のセオリーは,本作で確立された.海上封鎖および通商破壊を目的として進撃した本作のUボートは,659隻が建造され最も普及したタイプV-II-C.国民の称揚を背に本国の湾を出航,波を掻き分けて前進する艦は,まさに雄姿.クラウス・ドルディンガー(Klaus Doldinger)によるテーマ曲との一体感が素晴らしい.製作にあたってウォルフガング・ペーターゼン(Wolfgang Petersen)は,ほぼ原寸大のUボートを建造.

 デッキ上の場面は,巨大なレプリカあってのものである.45度まで傾けることができ,爆雷によって艦が揺れるシーンに大きく貢献したという.さらにペーターゼンは,日光から隔離された兵士たちの「青白い肌」を再現するため,キャスト全員に外出を禁じた.その作り込みがあって,敵国フランスの女性と恋愛中であるウルマン少尉の健気な文通,水深の安全域を超えたことで発狂する機関長,“幽霊”と揶揄される機関兵曹長の多彩な人間性が艦内に封じ込められている.ここでの従軍兵士は,生身の男性なのである.狂気と隣り合わせの閉塞感は圧巻.

 艦を目まぐるしく駆け巡る乗組員の後姿を,的確にとらえるショットも見事で,現代の潜水艦マニアも,一目置かざるを得ない作品であろう.しかし,209分という長尺により,重複と冗長を思わせるシーンが多くあった.ジブラルタル海峡突破後の帰港,無為に停泊しているUボートが迎えた沈痛な最期――イギリス軍の空爆であえなく大破していくその姿――戦争の儚さというより,有為転変の材として機能した潜水艦の役目が終わったという総評の印象が強い.無残な骸と化した艦に,英雄の面影はない.長大なフィルムも一つの特長といえるかもしれない.潜水艦映画の下敷きを多くプロバイドした金字塔ではある.

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原題: DAS BOOT

監督: ウォルフガング・ペーターゼン

209分/ドイツ/1981年

© 1981 Sony Pictures Home Entertainment