■「その男 ヴァン・ダム」マブルク・エル・メクリ

その男 ヴァン・ダム スペシャル・エディション [DVD]

 90年代を席巻した,ハリウッドが誇る最強のアクション・スター.ジョン・ウーをハリウッドに招き,アクション映画の革命を起こした男.しかし,21世紀,そのスタイルは既に時代遅れ,ビデオストレート作品が続いてギャラは急降下.復活を期した作品は主演をセガールに奪われ,最愛の娘にも嫌われ,銀行口座は底をつく,挙句の果てに,たまたま立ち寄った地元の郵便局で強盗犯に誤認されてしまう….

 曜洋画劇場の予告,若本規夫が巻き舌風に「ジャンジャンジャジャン,ジャン=クロード! ヴァンヴァンヴァヴァン,ヴァンヴァヴァァァンダム!!」と叫んでいたインパクトが忘れられない.1990年代,ジャン=クロード・ヴァン・ダム(Jean-Claude Van Damme)のアクション・スターとしての地位は,偉大とはいわないが価値のあるものだった.ハリウッドにジョン・ウー(John Woo)を招いた立役者になったが,当のヴァンダムは,21世紀に入ってもアクション路線から脱却できなかった.同じ路線であるが,キャラクターの立て方には定評のあるスティーヴン・セガール(Steven Seagal)の後塵を拝す格好になってしまったヴァン・ダムも,気がつけば48歳(製作当時)を越えてしまった.

 傍目には陽気でバカ丸出しのヴァン・ダムの俳優哲学と,ブラックユーモアの炸裂を期待して鑑賞すると,裏切られることになる.時代に取り残されたかつてのスーパースターも,やはり故郷ブリュッセルではまだ威光を保っているのが痛い.残念なことだが,地元の自称ファンたちも,ヴァン・ダムのいないところでは「背が低い」などとケチをつけ,タクシーの女性運転手は面と向かって「映画のほうが断然いい男ね,会って幻滅だわ」とバッサリ.実生活では,ギャラも低いビデオスルー作品しかオファーは来ない.もちろん作品を選ぶ権利は彼にあるはずもない.さらには,離婚裁判で娘から「パパのことは好きだけど,パパがテレビに出ると次の日にみんなから笑われるの.それが嫌」と証言され,まるで救いがない.

 映画の内容としては,これだけのキャリアを有した俳優が,実名で自虐的に演じてくれるオファーを取りつけながら,中途半端な感が否めない.変にヴァン・ダムの悲哀をドラマ的に演出する意図が見えて,彼の体育会系のバカ騒ぎを見慣れてきたこちらには,心の用意ができないまま,話が進んでいく.映画の幕開け,プロダクション“Gaumont”のロゴ場面で,シルエットのヴァン・ダムがコミカルな格闘を見せる演出で,観客は引き込まれる.続けて,長回しカットで,ヴァン・ダムが多数の敵をばったばったと倒していくチープなアクション劇も見事だ.自虐的であっても,自嘲的ではないアクション・コメディを観たかったのだが,後半のシリアスなアイロニーと,ヴァン・ダムのイメージがどうにもリンクしないのだ.

 アクション映画をコケにする台詞が多く登場する一方,郵便局占拠は,「狼たちの午後」(1975)の銀行強盗立て籠もりにオマージュを捧げている――同作のジョン・カザール(John Cazale)の風貌をそのまま模倣する人物が主犯格――しかし,「彼」と演技合戦するほどの個性をヴァン・ダムに求めるのは酷な話で,結局,主役もオマージュも生かし切れていない.ヴァン・ダムが掃いて捨てるほど演じてきた「超人」であれば,何の苦もなく本作の強盗たちをなぎ倒し,大喝采で帰還できるはずだ.その夢想と現実の対比は,彼の置かれた状況の説明がうまく働いて,説得力がある.その後,収監されたヴァン・ダムの心を揺り動かす「人物」との再会シーンは,笑いで済ませないシリアスさで映画を締めくくろうとするものだが,やや扱いに困る.

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原題: JCVD

監督: マブルク・エル・メクリ

96分/ベルギー=ルクセンブルク=フランス/2008年

© 2008 Samsa Film