2001年12月.売上高約1000億ドル(約13兆円)の巨大企業エンロンが,不正発覚からたった2ヶ月で破綻した.1985年に天然ガスのパイプライン会社として設立されたエンロンは,その後規制緩和の波に乗り,ガス・電力の卸売業に進出し,エネルギー業界で大躍進を遂げる.わずか15年で売上高全米第7位,世界第16位に成り上がった,エンロンの急成長と破綻を元社員の証言から追い,さらに世界を揺るがしたスキャンダルの数々を暴く…. |
欺瞞や愚かさといったものは,巨額な資本を盾にすれば,悪徳の免罪符となるかのような「錯覚」をもたらす.ジャン=ジャック・ルソー(Jean-Jacques Rousseau)は言った.「嘘には2種類ある.過去に関する事実上の嘘と,未来に関する権利上の嘘である」.売上高13兆円,社員数21,000人,全米第7位という大企業エンロンは,2001年に粉飾会計など不正な株価操作発覚後,たちまち負債総額160億ドルで経営破綻に陥った.
2002年7月のワールドコム,2008年8月の証券会社リーマン・ブラザーズの経営破綻が起きるまでは,エンロンは文字通り「最大の破綻」だった.電子商取引やブロードバンド事業で業績を拡大しただけでなく,エンロンは"mark to market"システムを加速し続け,あらゆる不正行為に及んでいた.フォーチュン誌で6年連続最優秀企業に選出された企業が,エネルギーの実需を凌駕するほどの利益を追求する.電力の売り買いを株価操作で誤魔化し,電力不足を故意に起こし電力価格を20倍以上に高騰させ,カリフォルニアの電力不足危機に乗じて利益を倍増させる.
社内人事の面では,二重帳簿の利益を横領した社員を解雇するどころか,逆に昇格させたCEO.アナリストや全米有数の会計事務所,顧問法律事務所までも巻き込んだコングロマリットは嘘に塗れきっている.哀れなのは2万人にも達した元従業員の失業者で,401K(確定拠出型年金)に加入していた彼らの20億ドルもの年金基金も消えた.巨大組織の盛衰を,膨大な情報量で追う本作で見ることができる.それは,過去と未来に対する信託を食い潰した虚飾の例ということである.
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原題: ENRON - THE SMARTEST GUYS IN THE ROOM
監督: アレックス・ギブニー
110分/アメリカ/2005年
© 2005 Jigsaw Productions, 2929 Productions, HDNet Films