1935年アメリカ,テキサス州マーシャル.人種差別が色濃く残るこの街には「白人専用」施設があふれ,黒人たちは虐げられていた.この歪んだ社会を正す方法は「教育」だけ.そう信じる教師トルソンは,黒人の若者に立派な教育を施すという夢の実現に向け,ディベート(討論)クラスを立ち上げる.そして,彼の熱意に触発された,勇気ある生徒たち.やがて討論大会に出場し始めた彼らは,黒人というだけで経験してきた悲しい過去や秘めた怒りを「言葉」という武器に託し,大勢の観客たちの心を動かしてゆく…. |
アラバマ州田舎町を舞台とした「アラバマ物語」(1962)は,1932年の設定だった.社会に異常と嫌悪を喚起するとされる存在が,そう看做されるようになったことに疑いの眼を向けるべきことの示唆.そのメッセージは本作でも期待されるものだが,集団討議の一(ディベート)を仲介させ,黒人少年の成長譚の印象に支配されてしまった.この種の題材をモチーフとするには,史実に立脚しながら脚色する慎重さが不可欠.
テキサス州マーシャル市のワイリー大学が「黒人の州立大入学の是非」「正義を求める不服従は善き武器であるか?」といったテーマを勝ち抜き,ディベート大会全米王者に輝いた事実は確かだが,本作で描かれる「ハーバード大学チームを論破」は事実ではない.相手校は南カリフォルニア大学とオクラホマシティ大学だった.全米最古のアイビー・リーグに属し,白人48%,アジア系17%,アフリカ系8%,ヒスパニック8%で学部生を構成するハーバードに「改変」されている.
脚本のロバート・エイゼル(Robert Eisele)が興味深いことを述べている.実話とフィクションのどちらであっても,ハリウッド映画は米国における体験の複合体であると.人種の坩堝における公民権が政治的テーマになる以前の年代,人種問題へヒューマニズムを打ち込もうとする作品的意図よりも,娯楽性を優先したと解釈されても仕方がない.常識的には,ポリティカル・コレクトネスを意識せざるを得ない題材ではなかったか.ご都合主義の中に,釈然としないものが残る.
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原題: THE GREAT DEBATERS
監督: デンゼル・ワシントン
128分/アメリカ/2007年
© 2007 The Weinstein Company