■「イタリア旅行」ロベルト・ロッセリーニ

イタリア旅行 Blu-ray

 ロンドンに住む会社役員の夫婦はイタリアに車を走らせる.ナポリの別荘を処分するためだ.見かけは仲のいい夫婦だが他人同士も同然.冷え切って夫婦仲は悪化の一途をたどり,離婚に突き進もうとしている.ナポリ観光もちぐはぐな別行動だ.次第に二人の関係は悪化をたどり,離婚へと突き進んでいくが….

 と子どもを捨てて“ヌーヴェル・ヴァーグの父”ロベルト・ロッセリーニ(Roberto Rossellini)のもとに走ったイングリッド・バーグマン(Ingrid Bergman).「アメリカの聖女」と呼ばれたバーグマンの激情は,本作製作時には夫婦関係の終焉に向けて熾っていた.撮影する脚本を前日に用意する,という即興に,夫役のジョージ・サンダース(George Sanders)も辟易していた(毎日,電話で分析医のカウンセリングを受けていたという).

 私的関係の危機に瀕したバーグマンとの殺伐とした雰囲気に,サンダースも貢献している.夫婦の会話に流れる冷たい拒絶.かつては2人でありつつ1つに合一することを求めたが,決して一心同体にはなれないディス・コミュニケーション,感情の断絶.「無防備都市」(1945)「戦火のかなた」(1946)で提示されてきた,現実凝視により真実が浮かび上がるロッセリーニの作品とは,本作は趣が異なる.

 ポンペイの遺跡発掘現場で,抱き合ったまま死んだ男女の遺影を目撃した妻の号泣,夫は,彼女とは別行動のカプリ島で知り合った女性との情事に失敗.ナポリの街,カプリ島,ヴェスヴィオ山という南イタリア名跡は,男女の不協和音を癒すこともなく厳然と佇んでいる.その空間にぽつねんと佇立する2つの影のなんと矮小なことか.ところが,突然2人に甦る激しい求愛の情.それは呆気にとられるほどのメロドラマなのである.

 ロッセリーニとバーグマンの「危機」は,古典文芸的な脚本の否定,屋外撮影,即興を交えるリアリズムのヌーヴェル・ヴァーグ配下の「虚構」に転化される.ジャン=リュック・ゴダールJean-Luc Godard)に“男と女と一台の車とカメラがあれば映画ができる”と言わしめた作品であるが,中年夫婦の危機がリアルであるだけに,唐突な再生からはご都合主義の印象を強くするだろう.ロッセリーニとバーグマンの婚姻は,1957年に解消された.

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原題: VIAGGIO IN ITALIA

監督: ロベルト・ロッセリーニ

75分/イタリア=フランス/1953年

© 1953 Italia Film