■「波止場」エリア・カザン

　ニューヨークの波止場で働くテリーは，港を牛耳るジョニーの命令によって兄チャーリーが仲間を殺す現場を目撃してしまう．殺された男の妹イディの嘆き哀しむ姿に心が揺れたテリーは，法廷での証言を決意する．しかし，それを察知したジョニーは口封じのために様々な脅しで妨害し，遂には兄チャーリーまで殺されてしまう…．

　土堰堤（えんてい）を海中に細長く突き出し，波防と荷役を可能にする建造物「波止場」．殺人すら厭わない搾取の悪玉と組合に立ち向かう孤独な港湾労働者の構図は，単純だが骨太である．元共産党員だったエリア・カザン（Elia Kazan）は，司法取引に応じて非米活動委員会での証言台に立ち，劇作家・演出家・映画監督・俳優ら11人の名を明かした．左翼思想との関係を維持していた彼らの多くは，亡命や匿名での活動に追いやられた．すでに社会派監督としての地位を築いていたものの，当然カザンに対する視線は冷ややかなものだった．

　男の色気が充満するマーロン・ブランド（Marlon Brando），ロッド・スタイガー（Rod Steiger）のギラつくエネルギー，レナード・バーンスタイン（Leonard Bernstein）による音楽の雄々しさ．エキストラとして雇われた港湾労働者たちの肉体のぶつかり合いはアクション性が高く，社会派よりもヒロイズムが目に付く．しかし，イディーの落とした手袋を拾って嵌めてみるテリイ――偶然を生かしたブランドのアドリブ――，2人の会話が汽笛にかき消される場面などは，実に繊細でもどかしい心の動きを表現している．

　脚本のバッド・シュールバーグ（Budd Schulberg）は，撮影の舞台となったホーボーケンに移り住み，波止場のバーや港湾労働者の“生きた声”のリサーチを進めたという．シュールバーグは彼らの憤りや節制を，プロットに十二分に取り込んだ．カザンは俳優養成学校アクターズ・スタジオを設立し，ブランドやジェームズ・ディーン（James Byron Dean）らを育成，マッカーシズムに翻弄される功罪の中でも，映画界への貢献を怠ってはいなかった．

　映画関係者や文化人を当局に「売った」ことを快く思わないブランドは，本作以降，カザンとは距離を置く．わずか88万ドルという低予算で完成された映画だが，蓋を開ければ960万ドルを叩き出すヒットを記録．アカデミー賞では12のノミネートの末，作品賞，主演男優賞，助演女優賞，監督賞，オリジナル脚本賞，編集賞を含む8部門を受賞した．カザンの方法論の一つの最高潮を証明した作品となった．

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原題： ON THE WATERFRONT

監督：エリア・カザン

108分／アメリカ／1954年