貧困と犯罪が渦巻くボストン南部で生まれ育った二人の男.ビリー・コスティガンは,犯罪者の一族に生まれ,自らの生い立ちと訣別するために警察官を志す.一方,ボストン南部一帯を牛耳るマフィアのボス,コステロの手によって,幼い頃から腹心の弟子として育てられてきたコリン・サリバンもまた,警察官を志す,コステロの内通者となるために.同じ警察学校で優秀な成績を収めた二人は,お互いの存在を知らぬまま,それぞれの道を歩き出す…. |
シチリア系イタリア移民の子としてリトルイタリーで生まれ育ったマーティン・スコセッシ(Martin Scorsese)は,マフィアやギャングの世界に蔓延る利己主義や狂気を描いてきた.長らく無冠の名匠の座に甘んじていたが,本作で名実ともにオスカーを手にした.プレゼンターには現代ハリウッドを代表する重鎮が揃って登場したが,本作の出来というよりも,スコセッシの長年の功績を評価した趣があまりに強い.言い換えると,映画としての器は決して大きくない作品が,桧舞台に祭り上げられたに過ぎない.
アイルランド系マイノリティとギャングを素材とする本作は,香港の「インファナル・アフェア」(2002)の二番煎じ.一般に,映画の最高峰と目される賞に見合わないクオリティに甘んじたリメイクだ.無冠のスコセッシを労うには,決してふさわしい作品ではない.レオナルド・ディカプリオ(Leonardo Wilhelm DiCaprio),マット・デイモン(Matt Damon),ジャック・ニコルソン(John Joseph "Jack" Nicholson)と,ドル箱スターと名優を配しているが,香港フィルム・ノワールの鬱屈した雰囲気は払拭されている.それに代わる特質も生み出していない.
スコセッシの十八番のカッティングも,優れた役者の競演も,オリジナルの焼き直しからくる根本的な陳腐さを抱えた脚本をカバーできなかった.“FUCK”という言葉が本作では237回使われる.スラングの代表格ともいえる下品な表現だが,その連発で貧困と暴力をアピールする手法は古い.遠大な計画すら厭わぬマフィアと警察の対立は,勧善懲悪を吹き飛ばす後味の悪さを残したオリジナルと比べ,本作のラストは信じられないほど低劣.リメイクする必要性のない作品に色気を出すと,こうなるという好例のような映画.
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原題: THE DEPARTED
監督: マーティン・スコセッシ
152分/アメリカ/2006年
© 2006 Warner Bros. Entertainment Inc.