■「バートン・フィンク」ジョエル・コーエン

バートン・フィンク [Blu-ray]

 1941年,ロサンゼルス.ハリウッドに招かれた社会派劇作家バートン・フィンクは,みすぼらしく不気味な雰囲気を持つ“ホテル・アール”にチェックインする.彼はキャピトル映画の社長リプニックに会い,B級レスリング映画の脚本を依頼されるが,隣の部屋の笑い声が気になって一向に筆が進まない.声の主は大柄な保険セールスマン,チャーリーだった.彼とは妙に気が合い,すぐに打ち解けたバートンだったが….

 燥を嫌う蚊が,ハリウッドのあるL.A.で主人公を煩わせる.些細な場面だが,これも現実感の乏しさをモチーフにしたコーエン(兄弟)流の「小道具」だった.社会派劇作家バートン・フィンクは,社会主義作家という設定で,インテリの感性に窒息させられる事態を恐れている.労働者のストライキを題材にした作風で評価されたユダヤ系作家クリフォード・オデッツ(Clifford Odets)が,フィンクのモデルと映画評論家ロジャー・イーバート(Roger Joseph Ebert)は指摘している.

 1940年代初頭,社会主義者の描いた現実と迷妄という点で,フィンクの神経症的昂奮,ホテル・アールの粗末な部屋でペリペリと音を立てて剥がれ落ちる壁紙がシュール.ハリウッドを席巻する映画会社社長,プロデューサー,かつての大作家で今は雇われ脚本家メイヒューは醜態をさらす.映画・演劇関係者も「マッカーシズム(反共運動)」の犠牲になってことごとく追放される時期を数年後に控え,理不尽な犯罪の一方的被害者となるフィンクの七転八倒.そのカタルシスが,絵画から脱け出してきたような美貌の女性との「奇遇」で果たされている.

 映画界の寒々しさを予期させながら,ハリウッドに紛れ込んだイメージの中での「(米)映画」(the pictures)はあくまで娯楽的.不気味なホテル・アールは,ジョエル・コーエン(Joel Coen)によって幽霊船に例えられた.彼の構想では,フィンクは誰にも目を向けることなく,他の乗客の存在の気配に気づくというものであった.退廃的で閉塞感に満ちたホテルの滞在は,悪夢と楽天的な幻想の両面をフィンクに思い知らせたのである.

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原題: BARTON FINK

監督: ジョエル・コーエン

116分/アメリカ/1991年

© 1991Twentieth Century Fox