■「あの夜、マイアミで」レジーナ・キング

あの夜、マイアミで

 「あの夜,マイアミで」は60年代の公民権運動や文化のうねりのさなか,各界のカリスマ的存在であるモハメド・アリ,マルコムX,サム・クック,ジム・ブラウンが自分たちの役割を熱く語り合う特別な一夜を描いている….

 人解放活動家のマルコムX(Malcolm X)が,世界ヘビー級タイトルマッチを終えたばかりの親友,カシアス・クレイ――後にモハメド・アリMuhammad Ali)と改名――の勝利を祝おうと,同じく友人の歌手サム・クックSam Cooke)とアメリカン・フットボールのスター選手ジム・ブラウン(James "Jim" Nathaniel Brown)に招集をかける.アメリカ黒人史を各々の立場で刻んできた4人の男たちが体現する葛藤,差別への怒りの主張を戦わせる舞台は,かつて“グリーンブック”(黒人が宿泊可能な施設を掲載した旅行ガイド)にも載ったマイアミのランドマーク・モーテル,ハンプトン・ハウス.公民権運動,宗教,政治が当時のアメリカ社会と文化に与えた影響を分析しながら,主人公4人の人格と人間関係の構築に焦点を当てている.鋭い知性と雄弁術により,ゲットーに住む黒人たちをエンパワメントしたマルコムXの急進的指導力の源泉は,憤怒と憎悪だった.

 クックは資本主義社会での成功を望む極端な一面を持ち,活動主義と「完全な革命」を推し進めるマルコムXは,「人種融合」をほのめかす白人リベラル派,ワシントン大行進に象徴される黒人公民権運動の黒人指導者,いずれも偽善と欺瞞が潜んでいることを許さなかった.ブラウンは黒人選手を使い捨てるフットボール界に別れを告げ,俳優デビューを模索している.そして,マルコムは急進的な活動家であり続けることに不安を感じていることを,静かに吐露し始める.アリのボクシングキャリアは新たな高みに達していたが,当時のジム・クロウ法によりマイアミビーチへの出入りが禁止された.マルコムは他の3人にも急進的であるように望み,とくにサムに対しては,発信する力がありながら黒人の解放運動についての情熱が足りないと説教してしまう.過激な方法で差別と闘うマルコムは,白人社会に迎合するような音楽に傾倒するクックが許せない.

 そんな自分を少しも恥じてないとクックは言い返す.白人の経営者に雇われるだけだった黒人ミュージシャンの枠を飛び越え,経営側にまわることで正当な利益を手にする前例となるなど,自分のフィールドでできる限りのことをやっていると反論する.議論するうちに,マルコムのクックに対する敵意は,少なくとも部分的には,黒人解放活動のストレス,特にFBIからの嫌がらせとブラック・ムスリムネイション・オブ・イスラム)の分裂に対する恐怖によって動機付けられていることが明らかになる.その夜の余波で,クレイは正式に名前を”モハメド・アリ”に変える一方,マルコムはネイション・オブ・イスラムとの分裂の影響で人生が混乱に陥る.彼の家は焼夷弾で爆撃されたが,彼は自伝を完成させた.ブラウンは映画のキャリアを追求するためにNFLを去った.クックはトゥナイト・ショーで"A Change Is Gonna Come"を初披露した.方法は異なっても,彼らはそれぞれに差別問題や権利の獲得について深刻に考えて行動していたのだ.彼らの議論が白熱していく様子は,迫力ある場面と優れた演技の衝突を生み出している.

 各人物の日常的な職業や,黒人男性として直面した苦悩を紹介することで,公民権運動中に彼らのさまざまな成功の立場を利用して意見を聞くにはどうすればいいかを議論する,かなり力強い主幕への準備が整う.レジーナ・キングRegina King)は監督として素晴らしい仕事をした.映画の大部分はホテルの一室で展開されるため,セリフと演技に頼らざるを得ないが,どちらも力強い.モーテル内のシーンで頻繁に肩越しショットを多用して,平面化しがちな構図に捻りを加え,鏡を使って狭いモーテルに広がりをもたらす等,様々なカメラワークを駆使して基になる舞台劇を映画的に再構成している.演劇から映画に追加されたことの1つは,マルコムXが写真好きだったということだ.最後のショットは,マルコムXが撮ったアリの写真に基づいている.クックとマルコムXの対立は架空のものである.これは,脚本家ケンプ・パワーズ(Kemp Powers)の黒人脚本家としての葛藤と,番組にどれだけ自分自身を投入するかについて感じた葛藤から生まれたものであった.

あの夜、マイアミで

あの夜、マイアミで

  • キングズリー・ベン=アディル、イーライ・ゴリー、オルディス・ホッジ、レスリー・オドム・Jr
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原題: ONE NIGHT IN MIAMI

監督: レジーナ・キング

114分/アメリカ/2020年

© 2020 Amazon Studios, ABKCO Films, Snoot Entertainment