■「猿の惑星:創世記」ルパート・ワイアット

猿の惑星:創世記(ジェネシス) [Blu-ray]

 現代のサンフランシスコ.製薬会社ジェネシス社の研究所に勤める若き神経科学者,ウィルが実験のためアルツハイマー病の新薬を投与した一匹のチンパンジーが驚くべき知能を示した.ところが,そのチンパンジーは突如暴れ出した挙句,射殺されプロジェクトは中止されてしまう.ウィルは生まれたばかりの赤ん坊を自宅に連れ帰り,“シーザー”と名付けて育てることに.3年後,すくすくと育ったシーザーとウィルとの間には本物の人間の親子のような強い絆が生まれており,同時に特殊な遺伝子を受け継いだシーザーは,類まれな知性を発揮し始めていく….

 ランツ・ボアズ(Franz Boas)以来,文化とは「人間の性質」であり,人間は経験を格付けする能力があり,象徴的に格付けたものを読み取り,その抽象概念を他人に教える能力があると理解されてきた.ピエール・ブール(Pierre Boulle)の原作では,猿が君臨する惑星の種族派生によると,未開猿と名のついた種々の先史猿はシミウス・サピエンス(知性猿)に終着し,さらにチンパンジー,ゴリラ,オランウータンと3つの階級があるということであった.

 猿と進化の途中までは同一だった人間族は,猿とは違い,発達,組織化,複雑化することがなかった.1968年の映画版,それに続くシリーズ作も,猿が人間を遙かに凌駕する知性を獲得した理論的説明はなされていなかった.原作では「四本足」「二本足」の優位性が常識とは逆の“論理”で説明されており,パラレルな印象を与えるものであったことは特筆される.本作の逆転の発想は,種の衰亡からみて知性の発達と後退というトレードオフは,人間のエゴと自業自得に帰されるべきとの視点によるものだ.

 人類の開発した科学技術の暴走が,シミウス・サピエンスの黎明を導いたという皮肉な終末論である.人為的に知能を向上させられたチンパンジー“シーザー”が,屈辱的虐待の果てに人類に拒絶を突きつけ知性猿の叛乱を指揮する.シリーズものとして後日譚を描く手法はもはや出尽くし,前日譚を扱う作品も新奇性を失った.本作も特に新基軸を打ち出すものではないが,シーザーにきわめて人間的な感情が芽生え,溜め込み,爆発させる様子を丁寧に描いている.

 シミウス・サピエンスの得た自我は,知性の賜物である.サンフランシスコを陥落したシーザー一門にも,すでにゴリラ,オランウータンという分派の系統が同時進行的に存在している.シミウス・サピエンスが地球全体を支配下に置き,以後の多系統間の対立関係が固定化するまで,いくつものドラマが考えられるだろう.旧約聖書の第1書に比喩された本作の登場により,「出エジプト記」「レビ記」「民数記」「申命記」とトーラー(律法書)のごとく構想は続く.

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原題: RISE OF THE PLANET OF THE APES

監督: ルパート・ワイアット

106分/アメリカ/2011年

© 2011 Twentieth Century Fox Film Corporation