■「真幸くあらば」御徒町凧

真幸くあらば [DVD]

 遊ぶ金欲しさに空き巣に入った家で,居合わせたカップルを殺害した南木野淳.一審で死刑を宣告され,控訴を取り下げ死刑囚となった彼のもとを,クリスチャンの川原薫が訪れる.薫は淳が殺した男性の婚約者だった.薫は婚約者の不実を暴きそれを裁いた淳に惹かれ,一方,愛を知らずに育った淳も薫によって生きる喜びを知る.互いに求め合う二人は,薫が差し入れる聖書に小さな文字で書き込み,思いを伝える秘密の通信を始める….

 常風景の描き方にセンスはないが,真骨頂となる魅せ場のインパクトはなかなか大したものだ.謀反の咎で捉えられた有間皇子が詠んだ「磐代の浜松が枝を引き結びま幸くあらばまた還り見む」.幸いにして無事でいられたならば,還り見よう.無事でなければ果たせないささやかな願いということに,不穏な運命を思わせる.

 この歌をモチーフにした純愛物語は,死刑囚南木野淳と,彼に「背徳の婚約者」を奪われた川原薫の非物理的愛撫の体をなす.森山直太朗の挿入歌《真幸くあらば》は,死刑・情死などの事件やその時々の風俗をつづった文句を,門付け芸人が三味線などの伴奏で歌って歩いた「歌祭文」と同義.詩作を生業とする御徒町凧の監督作として,クライマックスは詩的な怒涛感がある.

 おそらく製作費の関係で,チープな雰囲気が全体を支配しているのは仕方がない.しかし,薫(尾野真千子)の陰険そうな表情,彼女は個人と社会の再生と福音を促すクリスチャンという設定.にもかかわらず,南木野(久保田将至)への救済が真に迫ってこない.嘘は嘘であるほどまことしやかでなければならないというのに.

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原題: 真幸くあらば

監督: 御徒町凧

91分/日本/2009年

© 2009 「真幸くあらば」製作委員会