■「ポセイドン・アドベンチャー」ロナルド・ニーム

ポセイドン・アドベンチャー [Blu-ray]

 ニューイヤーズ・イブの夜,米国豪華客船ポセイドン号は,様々な人々の人生を乗せてアテネに向かっていた.しかし,その時海底地震が発生し,数分後船は大津波にのまれて転覆,一瞬のうちに数百名の生命を奪う大惨事となった….

 作と「タワーリング・インフェルノ」(1974)が,1970年代ディザスター・ムービーの双璧をなす.このジャンルが未だブレイクスルーを果たせないのは,アメリカン・ニューシネマの余韻をパニック描写に暗然と盛った1970年代の妙技を,超過できないことにある.ここでいう妙技とは,群像劇を意味する.信念と決断力に秀でたスコット牧師.自信喪失に陥りつつ,ポセイドン号から脱出する途で自信を甦らせるローゼン夫人.気性の激しさと金切り声で絆を確かめ合うロゴ警部補とその妻リンダ.幼いながら母性を漂わせるスーザン.無垢な好奇心と勇気をもったシェルビー少年.彼らの中でも,「生存組」は限られる.

 32メートルの津波に襲われ転覆爆破するポセイドン号には,1,400名の乗客がいた.早々に命を落とす者が大多数である中,生存者には生死を厳しく問う判断が迫られる.幸運な偶然性と生への執着が共存した場合にのみ,脱出の可能性を高めることができる.絶望に打ちひしがれ,へたり込む者を叱りつけ,慰め,鼓舞する.あるいは,脱出の指針をめぐり内輪で激しく対立する.その役割が場面ごとに入れ替わり,やがて彼らはタスクフォースの連帯感を獲得していくことになる.スペクタクルを重視するとともに,極限状況で人間同士のやり取りが変容していく描写に,群像が個人にフォーカスしていく様が見て取れよう.

 転覆した客船の底からデッキを目指し進行する人間を追う浸水の速度.見慣れたオブジェが180度反転している異常な船内.それらを映し出すカメラワークは,微細なブレを意図的に出して臨場感を高めている.美術のウィリアム・クリーバー(William Kleber)は,1936年から1967年まで大西洋航路を巡航していた豪華客船クイーン・メリー号をモデルにポセイドン号のセットを造形.セットデザインはラファエル・ブレットン(Raphael Bretton).撮影はハロルド・E・スタイン(Harold E. Stine),特撮は「トラ・トラ・トラ!」(1970)でアカデミー特撮賞のL・B・アボット(L.B.Abbott).勇気を備えた力強い人間も,運命の荒波の前に力尽きることは避けられない.その場合でも,身を呈し同士の「糧」となる.不条理を嘆き神を罵る叫びに,ドラマの帰結が導かれている.

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原題: THE POSEIDON ADVENTURE

監督: ロナルド・ニーム

117分/アメリカ/1972年

© 1972 20th Century Fox