■「絞殺」新藤兼人

絞殺 [DVD]

 ある夜明け,狩場保三は,熟睡中の息子,勉を絞殺した.妻の良子は,ふるえながら夫の顔を見つめていた.一瞬,良子の脳裡に,勉との楽しかった日々の数々がパノラマのように浮かんで消えた.夫婦は,息子を一流高校に入れるため,校区に家族で転居し,ある駅前でスナックを経営していた.保三が勉に話すことは,東大へ入るんだ,エリートコースを踏みはずすなということのくり返しであった….

 本アートシアターギルド(ATG)と近代映画協会の提携作品の1つである.自主演劇や反戦運動が盛んになった1960年代以降,「市場に恵まれない芸術作品の上映を推し進める」とのコンセプトで,ATGでは実験的な作品が製作された.本作は,1977年10月30日,東京都北区で実際に起きた「開成高校生絞殺事件」を題材にしている.

 製作は1979年で,大学入試の一期校二期校制度が廃止され,共通一次試験がスタートした時期と一致する.熾烈な入試競争がさらに激化したことが,学歴価値の殺伐たるインフレを招き,一種のファンダメンタリズムと化していく.競争の勝者への道は,敗残者を敷き詰め,踏みしだくことで舗装される.その環境に身を置き,周囲の期待にこたえ,競争相手を制する者が人生の勝者となる――その価値観が無残に砕かれた家族の解体の顛末.

人間,この不可解なもの.性のどろどろとしたつながりが人間をとらえてはなさない

 秀逸なキャッチコピーは,体制への順応を強いる社会に抗う反措定をも超えたメッセージ――家庭内で対話のない日常が暴力になり,親は暴れる子を理解できずに絞め殺す,いったん破壊された家庭で絞殺しても問題は解決しない――を孕んでいる.教育と親子関係の断面を抉るとともに,鈍感な家父長を余所にして母と息子の疑似的性愛関係が剥き出される物凄さ.乙羽信子の怪演が圧巻.

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原題: 絞殺

監督: 新藤兼人

115分/日本/1979年

© 1979 近代映画協会=ATG