■「用心棒」黒澤明

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 二大勢力の縄張り争いに明け暮れ,すっかり荒れ果ててしまった小さな宿場町.そこに流れてきた桑畑三十郎と名乗る凄腕の浪人は清兵衛親分の用心棒になるが,女房の強つく張りに嫌気をさし,敵対するもう片方の丑寅を訪ねる.丑寅には短銃を使う弟がいた.結局,両派を煙に巻き,同士討ちを企てるが….

 くれ者の野武士が,風のように現れ,快刀乱麻でヒールをなぎ倒し,去る.マカロニウエスタンの「荒野の用心棒」(1964)は,本作を翻案して当時,無名であったクリント・イーストウッド(Clint Eastwood)をスターダムにのしあげた.オリジナルの本作は,特異な人物設定,斬新な殺陣,それまでの時代劇にはない残酷描写と斬撃のリアルな効果音,すべてが型破りだった.

 「西部劇に置き換えても,面白くなりそうだ」と,イーストウッドは本作を観て漏らしたというが,当然のことながら,浪人をガンマンに置換しただけでは,作品の鮮烈さを模倣することはできなかった.斬り落とされた腕を犬がくわえて歩き,強面のゴロツキが泣き叫ぶ.巧妙にできたその腕は,出演している大橋史典が造形したもの.精巧すぎて気味悪く,黒澤明も近づかなかったという.

 シュールすぎる画は,サルバドール・ダリ(Salvador Dalí)でも思いつかぬ,と海外でも評判を呼んだ.ふてぶてしくニヒルな笑いをこぼしながら,「名は桑畑三十郎.もうじき四十郎だが」という三船敏郎の台詞は,続編「椿三十郎」(1962)にも通じるお約束.「斬られりゃ痛えぞ! まったく馬鹿につける薬はねえな!」と雷のごとく怒鳴りつける「三十郎」の性格設定こそ,二作が痛快時代劇となった真骨頂.

 連発銃を手に,マフラーを首に巻きつけ,顔にはドーランを塗って怪しげな色気をふりまく仲代達矢演じる卯之助も,対峙する宿敵として作りこまれている.痛快無比な本作だが,三十郎に加えられる執拗な拷問シーンは痛々しい.この男に,かように陰険な場面は似合わない.そして,なんといっても「椿三十郎」での最終決闘の派手さには一歩譲る.したがって,映画の娯楽性としては続編に軍配が上がるだろう.

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原題: 用心棒

監督: 黒澤明

110分/日本/1961年

© 1961 東宝黒澤プロダクション