■「不滅の女」アラン=ロブ・グリエ

不滅の女〈HDレストア版〉 [DVD]

 イスタンブールで休暇を過ごし始めた男は,陽気だがどこか謎めいた若い女と出会う.女との邂逅を重ねるうち,男は彼女の不可解さに自らの妄執をかき立てられ….

 スタンブールの神話的廃墟と謎めいた女を対比させるこの映画は,従来の時間軸や物語の枠組みを崩し,一連の美しいワンカットで見るものを惑わせる.フランス語を解す美女「L」の美しい瞳が,幻惑的な世界にわれわれを誘い込み,物語の真実性を疑わせる.時系列を断片化し,事実を矛盾させ,物語の流れを中断させることで,物語の定石を覆す.イスタンブールは観光客のために演出された都市であり,その神話的なイメージは西洋のステレオタイプに過ぎないと「L」の口から語られる.

 「L」がこの都市をガイドするにつれ,彼女の謎も深まっていく.映画はフラッシュバックや反復の累積を通じて構築され,常に非現実的で虚偽的な要素を示唆し続ける.イスタンブールを訪れたフランス人教師の男「N」の周囲では,時間が停止したように見え,街の人々は凍りついた彫像のように動かない.これは脚本家のアラン・ロブ=グリエAlain Robbe-Grillet)のアイデアであり,街の住人は外部からの刺激に合わせて動き出す.

 映画は建築物や芸術作品の信憑性を疑問視し,教師と謎めいた女性の出会いを中心に描かれる.登場人物は記号的であり,彼らの属性や名前は物語にほとんど影響を与えない.男性と女性の出会いやパーティーの場面は不可解であり,チューリップの記号が重要な要素として提示される.18世紀前半のオスマン帝国を「チューリップ時代」と呼び,その時代の文化や芸術は,華美な社交ダンスやコーヒーサロンなどフランス文化の影響を強く受けた.

 「不滅の女」というタイトルは,映像の中で死を超えて現れる「L」が生身の存在よりも表象の女性として捉えられることを示唆しており,ラーレという名前――トルコ語で「チューリップ」を意味する――から,彼女はチューリップの精の化身であることを想像させる.映画全体が彼女の美貌とイスタンブールの美しい景観に溶け込む.これは叙情的なモンタージュであり,理性を超えた潜在意識に訴えかけるもので,カフカ的な寓意と耽美による風土病の映像である.

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原題: L'IMMORTELLE

監督: アラン・ロブ=グリエ

101分/フランス=イタリア=トルコ/1963年

© 1963 IMEC