■「一人っ子の国」ナンフー・ワン,ジアリン・チャン

一人っ子の国 (原題 - One Child Nation)

 2019年サンダンス映画祭にてグランプリを受賞した「一人っ子の国」は,中国生まれの監督ナンフー・ワン(「Hooligan Sparrow」)とジアリン・チャンが人々の体験を通して,一人っ子政策の深刻な影響を暴き出すドキュメンタリー作品.

 国の一人っ子政策――1979〜2015年――は,世界的に議論を呼び起こした社会実験であり,その影響は計り知れないものがあった.この政策は,人口爆発を抑制し,経済の持続可能性を確保するために導入されたが,結果は破壊的であった.その悲惨な背景と影響を描いた有益なドキュメンタリー映画として,一人っ子政策の真実を切り取って見せている.この政策は,女性の権利と尊厳を侵害を伴った.男子至上主義の文化の影響を受け,多くの親は女児を捨てたり中絶させ,これにより,女性の人口が激減,男女の性比が極端に歪んだ状態が生まれている.

 女児を捨てた20〜30年後,女性の人口が大幅に減少し,10人の男子に対して1人の女子という異常な人口構成であり,結果として,男性は結婚相手を見つけることが難しくなった.また,この政策は人身売買や孤児院の悪用などの悲惨な現象を引き起こした.新生児は捨てられ,売買され,国際養子縁組の闇市場に供給された.政府高官や孤児院関係者がこの悲劇的なビジネスに関与し,巨額の利益を得たことが明らかになっている.

 このような人権侵害と結びついた政策の実施は,中国政府の責任を問うべきだが,政府が違法な搾取に加担し,それから利益を得ていることを告発したジャーナリストは,国外追放されている.一人っ子政策の影響は今も続いている.政策が終了し,「多子化」が奨励されるようになると,その負の歴史は忘れ去られつつあるように見える.しかし,その過ちを忘れることは許されない.

 この政策が引き起こした人権侵害や社会的混乱を理解し,今後の政策決定に生かす道はあるだろうか.このドキュメンタリーは,中国一人っ子政策の暗い過去と現在の残酷さを露わにした.女性の権利侵害,人身売買,孤児院の悪用など,その影響は深刻で持続的である.中国政府は,これらの問題に真剣に取り組み,過去の過ちを正すための措置を講じる必要があるが,その見通しはない.悲惨な過去の失策であるばかりか,中国現代社会の闇であり社会工学の失敗として永久に記憶されるだろう.

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原題: ONE CHILD NATION

監督: ナンフー・ワン,ジアリン・チャン

88分/アメリカ/2019年

© 2019 Chicago Media Project, Westdeutscher Rundfunk (WDR)