■「竹取物語」市川崑

竹取物語 [東宝DVD名作セレクション]

 「かぐや姫」の物語をもとに,かぐや姫の誕生から月の世界へ戻っていくまでをロマンスと特撮をたっぷり織り交ぜて描く.市川崑監督の一大ファンタジー巨編.貧しい竹取の老夫婦の近所に謎の物体が墜落した.二人はそこで謎の石の中に入っていた赤ん坊を拾う.二人の子として育てられた娘は評判となり,彼女に求婚をする公家が3人現れる.彼女は3人それぞれに古くから伝わる幻の秘宝を持ってくるよう条件をつけるが….

 本の物語文学の至宝『竹取物語』は,その起源からして謎めいた作品の一つである.平安時代初期に成立したと考えられ,その作者は不詳.しかし,その不明瞭な起源が日本文学の礎となり,後世の文学に深い影響を与えたことは疑いようがない.紫式部が「物語の祖」と称したこの作品は,異常な生長力を持つ竹から生まれたかぐや姫を通して,不思議な神通力と政治的風刺を組み合わせたものだった.『竹取物語』の成立時期は,通説では平安時代前期の貞観年間から延喜年間にかけての890年代後半とされている.

 作者や執筆の背景については依然として謎が多い.歴史的文脈や他の文学作品からの影響をうかがわせる要素が多く含まれており,それが成立の謎を深めている.映像化の興味深いアプローチとして,特撮監督円谷英二は,1970年に亡くなる前に『竹取物語』の映像化を熱望しており,その映画化においてはSF要素が導入されることが期待された.しかし,その映像化の試みは難航し,特に宇宙船パートの撮影は多くのリテイクを必要とした.田中友幸(当時の東宝映画社長)の理想は,アメリカ映画「未知との遭遇」(1977)風の作品であり,そのためには視覚的な演出が重視された.

 本作の宇宙船デザインに関しては,「未知との遭遇」のマザーシップ型UFOに類似しつつも,独自の要素が取り入れられた.ロータス(蓮の花)をモチーフにした仏具のような造形と1万本の光ファイバーによる電飾は,視覚的な魅力を斬新に高め,人外のかぐや姫の存在感と異質性を引き立てた.映像化におけるSF要素の導入は,一部の批評家からはユニークなアプローチとして評価される一方で,原作の持つ神秘性や古典的な美風を損なった側面も否定できない.和歌や四季の描写など,原作の独自の魅力はほとんど省略されている.一方で,この映画化の試みは『竹取物語』が持つ普遍的なテーマに新たな解釈をもたらす可能性も秘めている.

「生を受けたものが消えていくというのに何の不思議があろう」

「夢を見ているのでしょうか この世にあることのない幻を見ているのでしょうか」

「そうではない 人間はまだまだ知らない途方もないものがあることを知らねばならないのだ」

 かぐや姫異世界に帰る最後の場面での対話は,人間のあり方や未知の探求への意味深いメッセージを伝えている.このような要素が,古典の魅力を新たな視点から再評価する契機となるかもしれない.『竹取物語』の映像化におけるSF要素の導入は,古典と現代の融合を試みる興味深い試みである.しかし,その過程で原作の持つ神秘性や美しさを損なうことなく,新たな解釈を加えることが重要である.映像化の試みは,古典の魅力を新たな世代に伝える可能性を秘めているが,その過程で原作の本質を見失わないように創意工夫が求められるだろう.

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原題: 竹取物語

監督: 市川崑

121分/日本/1987年

© 1987 東宝映画=フジテレビ