ある日,連絡が途絶えていた妹から奇妙な手紙を受け取ったパトリック.彼は過激な取材スタイルのVICE社のサムとともに,とある共同体へと潜入取材を敢行する.「エデン教区」と名付けられたその場所は皆幸せそうに暮らしており,妹も無事だった.彼女は,ここで豊かな生活ができるのは"ファーザー"のおかげだと話す.しかし,平和に見える<地上の楽園>だったが,不可解な空気が見え隠れし始める…. |
定型の境界を押し広げることを好む第三者によって発見された未編集映像――ファウンド・フッテージ映画――の一例である.撮影者が行方不明となったため,埋もれていた映像というフィクションは,撮影者と無関係な者の手に渡り,そのまま公開されることになったという設定でもある.同様に,大きな緊張の瞬間に時折挿入される付随的な狂乱は,登場人物たちがフィクションのポストプロダクションで付け加えたものか,ファウンド・フッテージの「フィルター」を通した通常のプロジェクトであることを示しているようだ.
この作品は,1978年にカルトのカリスマ的指導者ジム・ジョーンズ(Jim Jones)が「人民寺院」と呼ばれる集団の数百人をガイアナ遠隔地のジャングルに連れて行き,「革命的自殺」――信者全員に青酸カリが入ったクールエイドを提供して集団自殺――を組織した事件,ジョーンズ・タウンの残虐行為をベースにしている.エデン教区の住人たちを温厚に見守る「ファーザー」の演技は素晴らしい.ある瞬間は饒舌で愛想がよく,次の瞬間には鋭く威嚇する.狂信的な教団に到着するときから,何か不穏なものが潜んでいることがわかり,前半は来訪者の好奇心と雰囲気を見事に構築している.孤立感を高めるため,観客を侵入者のように感じさせ,その謎めいた感覚を増幅させる.
ただし,教義に従って集団自殺をする宗教団体の姿が単純に描かれているだけなので,なぜ自殺をして魂を清める必要(教義)があったのか,教祖は閉じられた共同体から1人も脱退を許さず何を隠そうとしていたのか.まったく謎のまま考察すべき示唆もない.ポイント・オブ・ビュー形式ならではの「部外者は,最後まで何があっても撮り続ける」という設定を生かしていないので,意味不明な狂信者集団の自殺の背景を探ることができない.映画の中でカルト教祖に与えられた「ファーザー」という称号には通常,複数の意味がある.
教祖がジョーンズ・タウンでガイアナ滞在中に,信者が彼を呼ぶ尊称であった.さらに,神父という称号には宗教的な意味があり,教会では司祭に与えられることがある.ヘリコプターのパイロットが自殺し,乗客全員が死亡するという映画の当初考えられていた結末はカルト集団が革命的自殺を図るために計画していた複数の計画の1つと非常によく似ている.ジョーンズの愛人の一人は,人民寺院の信者で飛行機を満員にし,カルトの名の下に飛行機を墜落させる場合に備えて,飛行のレッスンを受け,パイロットの免許を取得していた.
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原題: THE SACRAMENT
監督: タイ・ウェスト
103分/アメリカ/2013年
© 2013 SLOW BURN PRODUCTIONS LLC