■「冬の華」降旗康男

冬の華 [Blu-ray]

 名シナリオライター倉本聰が,任侠映画の大スター高倉健にエールをおくるべく記した脚本を,降旗康男監督が映画化.裏切り者の兄貴分を殺した罪で服役していた加納秀次は,彼の忘れ形見に「ブラジルの伯父さん」と偽って獄中から養育費を送り続けていた.そして15年の刑期を終えて,出所した彼を待ち受けていたものとは….

 代劇の任侠映画が斜陽に陥っている映画界に,東映が一石を投じるつもりで製作した「仁義なき戦い」(1973).東映製作のバイオレンスの系譜を思わせるジャンルも,暴力団に対する白眼視が一段と強まる1980年代には,下火となっていく.仁侠作品からの脱却を図る東映は,1970年代後半にはディザスター作品に注力するが,イメージのシフト戦略はぎこちなさを残すものだった.本作にも,そのような苦心の跡が見える.

 倉本総の脚本には,それまでの任侠映画にはなかった哀愁を取り込む試みが窺われる.義理を欠いた者への容赦ない制裁,その娘を遠くから見守る「あしながおじさん」の誠意をもつ侠客.繊細な疑似的父子関係を抱擁するのは,ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー(Пётр Ильич Чайковский)《ピアノ協奏曲第1番変ロ短調 Op. 23 第1楽章》.さらに,東竜会会長のマルク・シャガール(Marc Chagall)作品収集癖.

 血で血を洗う宿命から逃れられない男たちに,およそ似つかわしくない癒しの芸術.このようなシニカルなファンタジー要素や詩情が注入されたバイオレンス映画は,東映の狙い通りの感銘は起きない.エレガントさに欠けるというより,それは化合物として適性を欠いているかのようだ.組の幹部役小林亜聖のオロナミンCガブ飲み,当時19歳の池上季実子の可憐さには,なぜか同等のインパクトと癒しがある.

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原題: 冬の華

監督: 降旗康男

121分/日本/1978年

© 1978 東映