凶悪な暴走族の暴行殺人が多発する数年後の近未来.相棒の死をきっかけに警察を引退したマックスは家族と休養の旅に出る.ところが旅先でトッカーター率いる暴走族グループに,最愛の妻子を殺されてしまう.復讐心に燃えるマックスは,暴走族用に開発された追跡専用パトカー<インターセプター>を駆って,たった一人で壮絶な闘いを仕掛けていく…. |
何から何までチープな作りの本作は,製作費と収益率のギャップの大きさでギネスブックに認定されていた.記録を抜き去ったのは,「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」(1999)である.メル・ギブソン(Mel Gibson)は当時,演劇学校の一学生に過ぎず,オーディションの前日にバーで派手に殴り合いの喧嘩をやらかした.翌日に着ていく服は替えがなく,ぼろぼろの恰好で会場に現れた.それを逆に面白がったジョージ・ミラー(George Miller)が,尖ったギブソンをマックス役に起用することにした.今見返してみても,脚本に優れた点があるわけではなく,オーストラリアの田舎町と荒野が近未来に見えるわけでもない.
B級どころか,下手すればC級レベルの映画と評価されても仕方がない.ところが,思わぬヒットを生み出した.マックスと暴走族の間に渦巻く暴力と復讐の連鎖を描いているが,テロリズム批判のメッセージはそれほど篭められていない.これは一つには時代の違いである.政治的な主張をこの手のアクション映画に織り交ぜること自体,まだ一般化されていなかった.さらに映画の「格」の問題がある.大きな注目を集める作品ではそもそもなかったわけで,低予算映画なのである.暴走族の面子は,演技経験のほぼ皆無な「ホンモノ」の走り屋だった.
ボスのトーカッター役に至っては,バイクの免許すら持っておらず,撮影時には「初心者」だったのである.笑ってしまうような話だ.たった一つだけ,切り詰められた予算を大幅に割いた道具があった.マックスの乗車するV8インターセプター,トーカッターらが乗るカワサキZ-1000,ホンダCBなど,走行速度を凶器とするマシンとそれら車輌の改造である.1974年式フォードXB GTハードトップ クーペ5.8L 351ci V8 300hp GTの改造車の造形は,マニア垂涎の的となった.
後に「マックス・ターン」と和製英語で呼ばれるようになった走行テクニック,後輪のパワースライドでアスファルトにドーナツ状の痕を残すことは一部で流行した.目には目を,歯には歯を――それだけの復讐劇である脚本をあえていじらず,大道具に映画の生命線を賭けて成功した.これも映画の魅せ方の一つなのだろう.撮影途中,過激なカーアクションのスタントに失敗した役者3人が重傷を負い,2人が死亡したという噂が流れた.元撮影スタッフのインタビューによれば,そのような事実はないという.
++++++++++++++++++++++++++++++
原題: MAD MAX
監督: ジョージ・ミラー
94分/オーストラリア/1979年
© 1979 Kennedy Miller Productions,Crossroads,Mad Max Films