| ゴルダ・メイアは間違いなく，そしていつの時代においても最も驚くべき女性の一人である．常に政治に積極的だった彼女は，イスラエル初のモスクワ特使となり，外務大臣に昇進，最終的にはイスラエルの指導者である首相に選出された．自伝の中で彼女はこう書いている．「私にとってユダヤ人であるということは，2000年以上もの間，あらゆる苦痛や苦悩を受けながらも，独自のアイデンティティを維持してきた民族の一員であることを誇りに思うことを意味し，また常にそうであった」――． |
ゴルダ・メイア（Golda Meir）の自伝は1975年に出版され，公私にわたる軌跡が綴られている．1969年秋にアメリカを訪問した際，70歳を超えて第5代イスラエル首相に就任したメイアを「おばあちゃんが買い物袋を提げてやって来た」とマスコミは報じた．その「おばあちゃん」は，ファントム戦闘機25機，スカイホーク攻撃機85機，そして大統領リチャード・ニクソン（Richard Milhous Nixon）から引き出した長期経済援助を「買い物袋」に詰めて持ち帰った．首相就任前のメイアは，セミリタイア生活で頻繁に入院していた．彼女の指名は，不活発な党組織の党略によるもので，メイアを支持する国民はわずか3％だった．指名は党内の対立を避けるためのものであったが，メイアの政治的指導力は短期間でイスラエル国民の支持を集めていった．回想録には，事実と主観的な個人エピソード，政治家としてのキャリアが交錯している．「ケネディは私から目を離さなかった」というエピソードや，ニクソン夫妻に迎えられたホワイトハウスでの出来事，ウィメンズ・リブを「ブラジャーが燃える」ものと否定した見解などが語られている．
キエフで貧しい大工の娘として生まれたメイアの最も古い記憶（4歳）は，ポグロムの恐怖であった．コサック軍が町を駆け抜け，ユダヤ人の家々に火を放つ中，馬の蹄の音が響く．メイアの父親はドアを板で覆い鍵をかけた．このトラウマ的な記憶はメイアの脳裏に深く刻まれ，「イスラエルが強くなければ平和はない」という信念による政治実現を生涯追い続けることになる．幼少期の貧困と恐怖，そしてポグロムの記憶は彼女を強くし，ユダヤ人の子供たちを同様の経験から守りたいという使命感に繋がっている．メイアの政治人生は，移住先のアメリカのデンバーで兆すが，そこはアナキスト社会主義とシオニズムに興味を持つユダヤ人移民の中心地であった．ここで初めてキブツのことを聞き，ユダヤ人が新しい社会を古代の祖国に築くという考えに心を奪われる．彼女はパレスチナのキブツに参加し，そこでの生活を通じて，後にエルサレムとテルアビブでの生活が描かれている．
メイアは，ヒスタドルート（ユダヤ労働総同盟）の執行委員や政治部長を務め，ユダヤ人のパレスチナ移民を推進した．1948年イスラエル国家樹立宣言の署名者の一人となり，1949年にはマパイ党（後のイスラエル労働党）から国会議員に選出され，労働相に就任した．1956年から1966年まで外相を務め，その間に姓を「マボヴィッツ」からヘブライ語の「メイア」（「燃え輝く」）に改めている．1969年首相に就任し，中東和平に尽力したが，1973年の第4次中東戦争の責任を取って1974年4月に辞任．彼女の人生のこれらの段階について，回想録には多くのエピソードが詳細に記されている．回想録は，政治的なものにとどまらず，メイアのドラマチックな人生を浮き彫りにしているが，最終章の首相在任5年間の記述は抑制的で陳腐な内容にとどまっている．十月戦争（ヨム・キプール戦争）に関する最後の章でメイアは「私たちが勝った」と述べているが首相支持率は，戦争前65.2%から低下し続け，戦後処理のために中東和平ジュネーブ会議が開かれた12月には支持率32.9%まで低下した．
ミュンヘンオリンピック事件の報復として行われた「神の怒り作戦」を首相として承認した事実，ユダヤ教の祭日だった1973年10月6日，イスラエルを急襲したエジプト＝シリア連合軍の攻勢と防戦，ヨーロッパ系ユダヤ人とオリエント系ユダヤ人の間の溝など，イスラエルの直面する国内問題にはあえて触れていない．1973年の第4次中東戦争の責任をとって首相を辞任後，1974年6月国会議員の議席を放棄し，再び公職に就くことはなかった．以後メイアはイスラエル政界の長老としてユダヤ基金募金運動に尽力した．彼女はそれが「国民の意志」であり，自分は首相として十分な務めを果たしたと信じていた．1978年12月8日，メイアはリンパ腫のためエルサレムで80歳で死去．エルサレムのヘルツル山にあるイスラエル国立墓地に埋葬された．1984年に旧1万シェケル紙幣，1987年のデノミネーション後は10新シェケル紙幣で肖像が使用されている．
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Title: MY LIFE
Author: Golda Meir
ISBN: 4566052281
© 1980 評論社
