▼『愛はなぜ終わるのか』ヘレン・E・フィッシャー

愛はなぜ終わるのか―結婚・不倫・離婚の自然史

 愛は4年で終わるのが自然であり,不倫も,離婚・再婚をくりかえすことも,生物学的には自然だと説く衝撃の書.男と女のゆくえを占う全米ベストセラー――.

 物学的に見れば,一夫一婦制は効率が悪い.世界の800以上の文化圏の中で,一夫一婦制を取っているのはわずか16%に過ぎない.この現象の背後には,生物学的な性差が存在する.具体的には,1人の女性が短期間で多様な遺伝情報を持つ卵子を放出することはできない一方で,1人の男性は多様な遺伝情報を持つ精子を放出することが可能である.これは,男性が複数の女性と交配することで遺伝的多様性を広げる戦略を取ることが,進化の過程で有利とされてきたためであろう.

何年も何十年も何世紀も,ひとは大昔の筋書をくりかえし演じている.気どっておしゃれをして異性の関心を引こうとし,求愛し,目がくらみ,たがいにとりこになる.それから巣づくりをし,子供をつくる.そして浮気して,家族を捨てる.ふたたび希望に負けて求愛を始める

 「結婚」という制度は多くの文化圏で見られるが,それが完璧に機能しているわけではない.離婚や再婚,不倫といった現象が絶えず起こっている.ロバート・ロウエル(Robert Lowell)は,恋愛の抗いがたい激情の嵐を「旋風,エロスの狂乱」と表現した.これは,人間の本能的な衝動が,社会的な婚姻制度としばしば対立することを示している.文化人類学者ヘレン・E・フィッシャー(Helen E. Fisher)は,62カ国の調査結果に基づく仮説を提唱している.

 多くのカップルが約4年で離婚し,特に若いカップルほど再婚する傾向があるという.フィッシャーは,この離婚のピークは人類が樹上生活をしていた頃の名残りであると主張している.子育てに手がかからなくなる時期に自然と離別を迎えることが,現代の離婚「周期」として残っているのではないかという説である.さらに,恋愛に夢中になる際に分泌されるPEA(フェネチルアミン)ホルモンが2~3年で枯渇し,その後は安心や落ち着きを感じるセロトニンが脳内に分泌されることが知られている.

 本書は主に文化人類学の視点で,霊長類ヒト科の性愛行動を論じているが,内容はダーウィニズム進化論に基づいている.十分に述べられていないものの,脳内物質の個体差による性愛行動と文化の違いにも興味深いものがあるだろう.生物学的視点と文化的背景の双方から一夫一婦制を考察することで,婚姻制度の効率性やその限界を理解することができる.人類の進化と現代の文化が交錯する中で,結婚や恋愛の形態がどのように変遷し続けるのかを探ることは,非常に興味深い課題である.

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Title: ANATOMY OF LOVE

Author: Helen E. Fisher

ISBN: 4794205082

© 1993 草思社