■「ペット・セメタリー」メアリー・ランバート

ペット・セメタリー デジタル・リマスター版 [Blu-ray]

 アメリカ・メイン州の小さな街ルドロー.トラックが行き交う道路沿いに引っ越してきたルイス一家は新しい家に大喜び.だが,数日後,ペットの猫が轢死.近くにあるペット・セメタリー(動物墓地)の奥の"禁断の場所"に埋めると,なんと翌日猫は生き返った.日を置かずして幼い息子ゲイジがトラックにはねられ死亡.歎き悲しむルイスはこっそり遺体を例の場所に埋葬するが….

 ティーヴン・キング(Stephen Edwin King)は,数々のベストセラー小説を世に送り出してきた多作な作家であり,その多くが映画化されている.しかしながら,彼自身が映画化作品に満足することは少なく,その理由の一つとして,映画が原作の細部やテーマを忠実に再現できない場合が多いことが挙げられる.本作もその一例であり,特にキング自身が脚本に関与している点が注目される.原作は,キング自身が「最も怖い物語」と評するほど,非常に恐ろしい作品である.この物語が彼の家族の実体験に基づいていることは特筆すべきで,執筆後も長らく発表をためらったという背景も,この作品の特異性を強調する.飼い猫が亡くなった経験や,息子が車に轢かれそうになった事件が,作品の主要テーマである「死と復活」のモチーフに大きな影響を与えた.

 原作『ペット・セマタリー』は,単なるホラーとしてではなく,家族愛に基づく人間の弱さと愚かさを描いた作品としても評価されている.物語の主人公ルイス・クリードは,医師でありながら,父親としての感情に支配され,理性を失っていく姿が描かれている.彼の息子への深い愛情が,死を冒涜する禁忌に手を染めるきっかけとなり,結果的に彼は家族を失うという悲劇に陥る.この矛盾した行動は,物語を単なる恐怖の領域にとどめず,人間の本質的な弱さと悲しみを浮き彫りにしている.この主題は,ゴシック文学の伝統にも通じており,超自然的な力が人間の悲しみに乗じて物語を進行させる構造が巧みに描かれている.映画版では,キングのロック・ミュージックへの愛好が色濃く反映されている.

 主題歌を担当したラモーンズRamones)の楽曲が,映画のエンドロールで使用されているが,特にこの曲が映画のテーマと調和していない点は残念である.物語が描く内面的な恐怖や家族愛の悲劇性とは異なる曲調は,映画の深刻さを損ない,むしろ軽薄さを与えてしまう可能性があるためである.さらに,映画の視覚表現についても同様の問題が見受けられる.特に,妻レイチェルが蘇るシーンでは,過度にグロテスクな外見の強調が見られるが,これも原作の持つ内面的な恐怖を描くというキングの意図から逸脱している.視覚的な恐怖に頼ることで,作品の哲学的な深みが薄れてしまう危険があり,むしろ登場人物の内面的な葛藤を描くことに重点を置くべきだった.

 『ペット・セマタリー』の原題"Pet Sematary"は,子供が書き間違えたスペルに由来している.このスペルミスは,子どもたちが作り上げたペット墓地の無垢さと,死というテーマの対比を象徴する.子どもの無邪気さと死の不気味さを結びつけるこのタイトルは,作品全体の象徴的な意味を強化しているが,邦題にはそのニュアンスが十分に反映されていない点が致命的である.映画版はキングの地元であるメイン州で撮影されたが,ペット墓地のシーンでは,エルズワースという小さな町が使われた.リアリティのあるロケーションは,映画に不気味さと現実感を与える重要な要素となっており,地元住民もエキストラとして参加したことは,映画製作が地元コミュニティに与えた影響として興味深い.

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原題: PET SEMATARY

監督: メアリー・ランバート

103分/アメリカ/1989年

© 1989 Paramount Pictures