▼『暁の女王と精霊の王の物語』ジェラール・ド・ネルヴァル

暁の女王と精霊の王の物語 (角川文庫)

 夢の中の感情を描く「狂気の浪漫主義詩人」ネルヴァルが,東方旅行の途上,コンスタンチノープルで耳にしたシバの女王バルキスと伝道者ソロモンの幻想的な恋物語中村真一郎の名訳で贈る――.

 初の狂気の発作に襲われた翌年の1842年,ジェラール・ド・ネルヴァル(Gérard de Nerval)はパリを出て,近東諸国を約1年間放浪した.本書は,コンスタンチノープルで耳にした暁の女王バルキスと精霊王ソロモンの悲恋物語.その神秘のイデアリスムは,アラベスクを思わせる装飾と技巧が凝らされている.

 繁栄の地イスラエルにおいて,国民に巨大な都市建築を命じるソロモンだが,異教徒でシバの女王バルキスの美貌に迷い,策略を巡らして婚約をとりつける.詩歌に秀でた伝道者ソロモンも,権力者特有の猜疑心に苦しむ男であることをバルキスは見抜く.バルキスと通じる神殿建築の棟梁アドニラムはソロモンに嫉妬され,その陰謀で命を落とす.バルキスはソロモンのもとを去り,悲嘆に暮れるソロモンは秘術により,とこしえの玉座につくが永遠に思われた玉座も1匹の虱に食い潰され崩れ落ちる.

 ネルヴァルは,夢と狂気の幻覚に生きた.『オーレリア』で「夢は第二の人生である」と書いた彼には,晩年,ザリガニと散歩をしたという逸話がある.19世紀までネルヴァルはさほど顧みられることはなかったが,20世紀に入りマルセル・プルースト(Valentin Louis Georges Eugène Marcel Proust)やアンドレ・ブルトン(André Breton)によって再評価がすすめられた.

 本書に対する評論は,1884年2月,ニューオリンズの一紙に「狂える浪漫主義者」と題した文章が最初期のものとされている.シバの女王と精霊王の物語は,浪漫主義の幻想と陶酔の世界にわれわれを誘う.そこでの意想の奇と,文体の不思議な美しさとによって,永遠の価値を持つところの著述,と紹介されている.この評論を書いたのは,小泉八雲だった.

Title: HISTOIRE DE LA REINE DU MATIN ET DU PRINCE DES GENIES

Author: Gérard de Nerval

ISBN: 4042456014

© 1952 角川書店