▼『オーメン』デヴィッド・セルツァー

オーメン (河出文庫)

 六の月,六の日,六の時刻―待望の初子が死産だったことを妻に告げず,同じ時刻に生を受けたみなしごを養子に迎えた米国大使.その子「デミアン」こそ,黙示録に予言されていた悪魔であった.ホラー映画の金字塔『オーメン』(七六年)の脚本家が自ら執筆したベストセラー小説――.

 ハネの黙示録第13章第18節に記された魔の申し子,「獣」は6月6日の6時に生誕するという.逆に天使の子は1月1日1時に生まれる.キリスト教で完全な数字は「7」であるが,これは,邪悪の数字「6」を制することのできる数である.イエス・キリスト(Iēsūs Khristos)とその信者を迫害したネロ(Nero Claudius Caesar Augustus Germanicus)を暗示する数字ともされる獣の刻印【666】は,人間の姿を借りて災厄と混沌をもたらす存在に付されていた.

知恵はここにあり,心ある者は獣の数字を数えよ.獣の数字は人の数にして,その数字は666なり

 駐英アメリカ大使ジェレミー・ソーンは,ローマの産院で,6月6日6時に産まれた他人の子を養子として引き取る.養子はデミアンと名づけられ,ソーン夫妻は惜しみなくデミアンに愛情を注いだ.絵に描いたように幸せそのものの一家だったが,デミアンが5歳を迎えた誕生日,若い乳母が異常な自殺を遂げる.以来,夫妻の周囲に不吉なアクシデントと疑惑の出来事が続出する.

 1976年の映画化によって,あまりに有名になったタイトル.意味は「予兆」.映画のシナリオが完成した後に小説化されただけあって,忠実に映画の流れをなぞった構成である.仰々しいスプラッターや悪魔の禍々しさを描かずとも,十分に不気味さを演出できることを,映画と小説は共有して支え合っている.どちらの媒体から観賞しても楽しめる,珍しいタイプの作品といえよう.

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Title: THE ORMEN

Author: David Seltzer

ISBN: 4309462693

© 2006 河出書房新社