▼『貨幣の悪戯』ミルトン・フリードマン

貨幣の悪戯

 貨幣は歴史に何をしたのか.貨幣が本質的にもつ悪戯性を「経済学の巨人」M・フリードマンが歴史を紐解きながら明らかにする.われわれはまた,「貨幣の悪戯」に襲われるか――.

 インズ学派の大不況解釈のビジョンは「誤認」,と実証してみせた記念碑的著作『合衆国の貨幣的歴史』は,ミルトン・フリードマンMilton Friedman)と助手アンナ・シュワルツ(Anna Jacobson Schwartz)の共作である.3巻からなるこの大著で,フリードマンケインズ学派が見落としていた名目貨幣量の動きの重要性を説いた.フランク・ナイト(Frank Hyneman Knight)のシカゴ学派を拡大したフリードマンは,1920年代終わりにアメリカ発の不況が最悪の経済恐慌に発展したのは,連邦準備制度が「最後の貸し手」として機能せず,ドル安フラン高に手を打たずに預金通貨が激減した結果であると論じている.

 マネタリズムが学問的・実際的影響力をもつに至る歴史的事実を,フリードマン自らの解説で読むことのできる本書は,知的刺激に満ちている.とりわけ複数本位制にまつわる“アメリカの過失”を,「貨幣数量説」「非積極主義」「経験主義」の実践として説明する実証経済学主義の徹底性は見事なもの.第2章にあるフィッシャーの貨幣数量方程式"M V = P T"は,経済環境の変化がもたらす影響分析で用いられる基本式.経済要素の中でも決定的に重要な役割を果たす「貨幣」の経験論的概念が曖昧である,という理論的主張も尖鋭.

 すなわち紙幣および硬貨にとどまらず,銀行券,小切手,当座預金流動性資本の総量までもが広義の貨幣に含まれる.社会の現実と個人の把握する現象の相違を,フリードマンは広くディシプリンとして「貨幣の悪戯」とする.貨幣もまた現実分析の道具の一つでありながら,抽象論的概念が明確で,経験論的概念が曖昧であるとは.ユーロ下落トレンド,債務不安に苛まれる中で金融緩和を行わざるを得ない日米欧が,消去法としても――広義の「貨幣」――政策を考えあぐねるのは当然.当面,新興の主力株も期待はできない.

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Title: MONEY MISCHIEF

Author: Milton Friedman

ISBN: 9784895831239

© 1993 三田出版会