▼『ディープ・スロート』ボブ・ウッドワード

ディープ・スロート 大統領を葬った男

 ニクソン大統領を辞任に追い込んだ「ウォーターゲート事件」から33年.新米記者ボブ・ウッドワードに地下駐車場で極秘情報をリークしていた人物が名乗りを上げた.当時のFBI副長官マーク・フェルトだった.フェルトが死ぬまで秘密を守り抜く覚悟でいたウッドワードが,その告白を受けて初めて明かす,フェルトとの出会い,情報源秘匿のエピソード,その後の二人の関係――.

 胆,痛烈,爽快.それが1つにまとまった感じ――ボブ・ウッドワード(Bob Woodward)が『大統領の陰謀』の執筆に取りかかる前,ウォーターゲート事件関連の記事について,ロバート・レッドフォード(Robert Redford)が面白そうに語った発言.ワシントン・ポスト紙のスクープは疑惑の水門(ウォーターゲート)を貫く「弾丸」となり,NYタイムズ,L.A.タイムズらが競って情報源を追った.

 新米記者ウッドワード(Bob Woodward)とベテラン記者カール・バーンスタイン(Carl Bernstein)の2人に,地下駐車場で秘密裡に示唆を与えたのは,事件当時,FBI副長官のポストにあったマーク・フェルト(William Mark Felt)である.フェルトは米誌「バニティー・フェア」で家族の証言を交えて自分が「ディープ・スロート」――リンダ・ラヴレース(Linda Lovelace)主演のポルノ映画のタイトルから取られた名前――であったことを明かした.

 2005年5月31日の公表当時・90歳という高齢のフェルトは,認知症も相当進み,事件当時の記憶も崩壊していた.よって,公表の真意は不明となっている.国防総省に勤務する海軍大尉だったウッドワードとフェルトの偶然の出会い,法を破り,権力を乱用して政権維持に汲々とした大統領,政治資金をめぐる事件を追う際の鉄則「カネの流れを追え」.

 世紀のジャーナリズム「奮闘劇」は,権力を撃つ言論の花形の模範となり,リークと告発行為が脚光を浴びる先蹤をなした.報道関係者の側から,ウォーターゲート事件を描きだす選択は,レッドフォードの言葉から影響を受けたものであるとウッドワードは認めている.当時のディープ・スロートの役割は,自分の個性や人間性と結びついている,とまでいう心情に,ウッドワードには珍しい追憶が垣間見える.

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Title: THE SECRET MAN

Author: Bob Woodward

ISBN: 4163675809

© 2005 文藝春秋