▼『誰も書けなかった石原慎太郎』佐野眞一

誰も書けなかった石原慎太郎 (講談社文庫)

 なぜ,彼はこの半世紀,人びとの関心を集め続けてきたのか.「男が惚(ほ)れる男」だった父・潔と,「日本で最も愛された男」と言われた弟・裕次郎へのコンプレックスから,新銀行東京問題までを徹底取材.大衆の心にひそむ欲望を,無意識に,しかし過剰なまでに映し出す鏡であり続けてきた慎太郎の本質を暴く――.

 石原慎太郎の『太陽の季節』を読んで,あまりの中身のなさに唖然としたことがある.財力と強運に恵まれたこの男の文才は,デビュー作で枯渇したのではないかとさえ思った.芥川賞受賞からの半世紀,記憶に残る作品は皆無に等しい.事実,石原は半世紀以上にわたり,耳目を集めてきた.太陽族などというトレンドを作り,弟・石原裕次郎を映画界に送り込み,そのスター性に嫉妬し続けた.

 国政の議員を務めた後,都の首長に打って出て,過激な言動で大衆を沸かせ,危ういファシズムに日本をリードしかねない批判に恬然とし続けた.石原兄弟のルーツを探るべく,著者は,彼らの父・石原潔の出自まで遡り,新銀行東京の破綻に象徴される石原の無謀と限界に引退勧告をこすりつける.著者の文章は,いつものことながら,泥まみれの手で深部を汚しながら,臓腑を掴み取るような趣きがある.どこまでも品性下劣なのである.

 物質的には何不自由なく権力を掴むことに成功した石原の傲慢さは,弱者への露骨な口撃をなしうるほど無神経に見えて,実は神経過敏を覆うフィルターのように見える.精力的に活動を続けた石原も,晩年は忍び寄る「老い」に怯え,その命は尽きた.人物を形成した系譜をたどる意味で,父親の出自を赤裸々に描こうとする本書の意欲は買えるが,いかんせんそのパートが長すぎる.それに比べて,顔と性格が慎太郎にそっくりな母親の記述が少ないのが気になった.著者の文章の盗癖は論外.

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原題: 誰も書けなかった石原慎太郎

著者: 佐野眞一

ISBN: 4062762471

© 2009 講談社