▼『フィールズ賞で見る現代数学』マイケル・モナスティルスキー

フィールズ賞で見る現代数学 (ちくま学芸文庫)

 フィールズ賞は「数学のノーベル賞」とも称されるほど,数学界において権威のある賞である.本書は第一回(1936年)受賞者のアールフォルスとダグラスから,「ポアンカレ予想」を解いて2006年に受賞したペレルマンまで,主要な受賞者たちの業績を紹介.賞の提唱者であるジョン・チャールズ・フィールズの生い立ちや,歴代受賞者一覧・参考文献など,歴史的記述・資料類も豊富.コンパクトな本ながら,フィールズ賞の全容と現代数学の最先端を展望することのできる一冊――.

 率論を除くほぼすべての分野において,数学におけるノーベル賞ともいうべきフィールズ賞受賞者は分布している.同賞は,4年に一度開催される世界数学者会議で選出される.年齢制限は40歳.スウェーデンの数学者ヨースタ・ミッタク=レフラー(Magnus Gustaf (Gösta) Mittag-Leffler)の妻への叶わぬ思慕が,アルフレッド・ノーベル(Alfred Bernhard Nobel)にノーベル数学賞の設置を避けさせたという噂の真偽は不明.

 だが,ノーベル賞に代わる権威ある数学賞として,トロント大学の数学科教授であったジョン・チャールズ・フィールズ(John Charles Fields)の悲願は報われているといってよい.ポアンカレ予想の解,代数幾何学,カタストロフィー理論,調和積分論など,数学の顕著な進歩が認められ表彰された数学者は,1936年の第1回受賞以来,30名を超える.

 ロシア生まれで,物理学への現代数学を研究するマイケル・モナスティルスキー(Mikhail Il'ich Monastyrskiĭ)は,ソビエト数学の水準の高さを表明しつつ,本書で数学は文学や芸術に劣らない文化要素のひとつと位置づける.チャールズ・フィールズは,過去の業績に対する表彰ばかりでなく,それ以後の研究に対する奨励の意味をも賞に籠めた.普遍的な真理の追究を誠実に考えようとすれば,モナスティルスキーの危惧は,科学技術立国に真摯に受け止められるべき警句となるだろう.

 しかし不幸なことに,国内の苦しい社会情勢,政情不安,経済的難題は科学,特に数学の将来に深刻な懸念をもたらしている.

 数学における主導的立場を失うことは,先進国の中でしかるべき立場と敬意を得ようと取り組むわが国の努力に対して,取り返しのつかない衝撃を与えることになるだろう

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Title: MODERN MATHEMATICS IN THE LIGHT OF THE FIELDS MEDALS

Author: Mikhail Il'ich Monastyrskiĭ

ISBN: 9784480095435

© 2013 筑摩書房