▼『ボルヘス怪奇譚集』ホルヘ・ルイス・ボルヘス,アドルフォ・ビオイ=カサレス

ボルヘス怪奇譚集 (晶文社クラシックス)

 中国の妖怪物語.セイロンの人喰い鬼伝説.アラビアンナイト.そして,カフカやポーの掌篇.20世紀文学に屹立する「迷宮の作家」ボルヘスが,東西古今の膨大な書物を渉猟,その博識博捜のかぎりをつくして選びぬいた,世にも不思議な怪奇譚のかずかず.「物語の精髄は本書の小品のなかにある」…92篇からなるユーモアと幻惑のアンソロジー――.

 が死去した1938年のこと,ホルヘ・ルイス・ボルヘス(Jorge Francisco Isidoro Luis Borges Acevedo)は窓に頭を強打して生死の境を4週間彷徨った.回復後,以前の言語能力を失ってしまうのでないかと恐怖を感じた彼は,ラテンアメリカの前衛詩,社会詩の才を試走,以後は詩文ではなく簡潔な文章で異能や異次元の文学空間を創造した.

 親友ビオイ=カサレス(Adolfo Bioy Casares)の協力のもと,古代ローマ,中国,インドの伝説,千夜一夜物語など古今東西の書物から選ばれた物語群は,あるものは虚構,あるものは歴史である.逸話,寓話,物語など,短いものであれば,すべて歓迎された.

物語の精髄は本書の小品のうちにある,とわれわれは自負する.あとは挿話的な例証,心理的な分析,幸運な,もしくは間の悪い言葉の装飾である.本書がわれわれを楽しませたように,読者諸氏をも楽しませることと信ずる

 古今東西の書物から選びぬかれた92篇の短くて途方もないエピソードからなる物語を語る喜び.「ボルヘス的」という言葉は,物語の非直線性の質を反映することを指す.その有限と無限の対峙から円環的に反復する多様な観念は,形而上学の骨格をなす永劫回帰をモチーフとして,無限の相が迷宮的なテクストに昇華しているのだ.

++++++++++++++++++++++++++++++

Title: EXTRAORDINARY TALES

Author: Adolfo Bioy Casares, Jorge Luis Borges

ISBN: 4794912617

© 1998 晶文社