▼『科学者と世界平和』アルバート・アインシュタイン

科学者と世界平和 (講談社学術文庫)

 世界政府は人類の理想か,あるいは帝国主義の一つのかたちか.米国に亡命したばかりのアインシュタイン旧ソ連の科学者たちの対話「科学者と世界平和」.時空の基本概念から相対性理論の着想,量子力学への疑念,そして統一場理論への構想までを丁寧に,かつ率直に語った「物理学と実在」.二つの「統一理論」への天才の真摯な探究――.

 子論と対立しながら物理学は文学と文法を類似させているとの思念をもつアルバート・アインシュタイン(Albert Einstein)は,1935年アメリカ永住権,1940年に米国籍を取得した.本書は,アインシュタインのエッセイ集『私の見た世界』(1934年)の続編で1934年から1950年までの15年間にわたる論文,講演,書簡など,さまざまな文書から抜粋されたエッセイ.

 科学,信念と信条,公共問題などテーマ別に分けられ,原子時代の戦争をコントロールする超国家的な統治機関の必要性,研究・教育の自由,ユダヤの歴史とシオニズムなどへの考察が披瀝される.とりわけ1947年の国連総会に宛てたアインシュタインの公開状,これを受けて当時のソ連の科学者4名が書いた公開状形式の反論,それに対するアインシュタインの批判的応答がすばらしい.

 「原子力の管理」「原子力の国際的な制御」を前提とした戦争回避の方策,国連を"超国家的"なものにしていくための「国家主権制限」の提案を行うアインシュタインに対し,ソビエトの科学者らは支配的な資本主義的独占の強化につながる国家主権を嫌悪してそれを撥ねつけようとする.1930年代,ナチスの台頭により亡命を余儀なくされた科学者を所員として迎え入れたプリンストン高等研究所において,ジョン・フォン・ノイマン(John von Neumann),クルト・ゲーデル(Kurt Gödel),ロバート・オッペンハイマー(J. Robert Oppenheimer)らとともにアインシュタインは「アメリカ知性の季節」の当事者であった.

 1947年当時のスターリン政権時代のソビエト連邦の科学研究機関――ソビエト連邦科学アカデミー,モスクワ科学アカデミー,レニングラード科学アカデミーなど――擁するソビエト最高の知性集団の科学的視点は,自然社会の歴史的過程を物質的存在の弁証法的発展として説明する弁証法唯物論に全面的に依拠していた.科学的社会主義の基礎を揺るがす観点から,アインシュタインの主張するような「国家主権制限」など容認できるはずはなかったのである.

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Title: OUT OF MY LATER YEARS

Author: Albert Einstein

ISBN: 978-4-06-512434-5

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