▼『武道秘伝書』吉田豊 編

武道秘伝書 (現代人の古典シリーズ 5)

 柳生但馬守松浦静山など,戦国初期から江戸初期に活躍した武芸の達人たちは,生死を賭けた闘争を通じ,独自の哲学を形成した.剣と心の理論にみる彼ら剣聖の,きわめて現代的かつ実戦的な処世術を紹介する――.

 家諸法度が寛文三年(1663)に改められたことにより,武芸者同士の真剣勝負は禁じられた.殉死の禁令をはじめ,武断主義から文治主義への転換を示す時代に突入する.戦国の末期から江戸の初期にかけて剣術の流派を興した達人たちの心技の理論は,生死を賭した勝負の奥義から,競技としての勝利の極意にシフトしていった.

 1751年頃より,一刀流中西派の中西忠蔵の竹刀稽古が,道場を設置する気風を世に送り込んだ.これが,全国の道場を実用的でない剣術の「養成場」たらしめた.本書は,「兵法家伝書」(柳生宗矩),「不動智神妙録」(沢庵),「一刀斎先生剣法書」(古藤田弥兵衛),「五輪書」(宮本武蔵)など7編の剣術伝書のエッセンスを要領よく編集.本来の実践技術としての剣術が,武士の「教養」と変質していった時代に書かれた伝書である.

徳川三百年の間,柳生新陰流一刀流をはじめとする各流派が,それぞれの道統を継承することができたのは,幕府や各藩の庇護があったことだけでなく,歴代の継承者たちが,流祖の精神をそれぞれの時代に生かすよう努め,その流派の堕落と形骸化を防いできた成果であった

 柳生宗矩は,悪を殺すことで万人が救われることを「活人剣」と呼んだ.剣術は人を殺傷する技術だが,武芸者は鍛錬と極致によって高遠なる境地に到達する.まさに,剣術は人格陶冶の「学問」だったのであろう.柳生の『兵法家伝書』は,僧沢庵や門人である細川忠利,鍋島勝茂らの協力によって樹立された武芸および心法上の理論体系の水準を示した.数々の剣の伝書は,現代に通じる訓戒を垂れている.

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原題:武道秘伝書

著者:吉田豊

ISBN: 9784192422109

© 1968 徳間書店