▼『余暇と祝祭』ヨゼフ・ピーパー

余暇と祝祭 (講談社学術文庫)

 余暇とは,労働に従事している人間に労働以外の有意義な活動の場を与えること,真実の余暇をもつ可能性を開いてやることである.本当の余暇は無為でなく,まさしく活動である.どのような行為で余暇をみたすべきか,それこそが中心問題である.本当の意味での余暇の実現とは,余暇の本質である祭りをいわい,礼拝することにある.つまり,祝祭を可能にするものがそのまま真実の余暇を可能にすると説く,余暇論に地平をひらく好著――.

 ゼフ・ピーパー(Josef Pieper)は,ミュンスター出身の神学者ミュンスター大学で哲学的人間学担当の教授だった.ピーパーが本書で行った「余暇」の問題提起は,労働に明け暮れる中世社会の人々にとっても,現代社会の人々にとっても受け入れがたい主張と理解されよう.余暇の本質を理解するため,対立する労働概念と怠惰の概念を考察する挑戦的記述は,今でも新鮮に映る.

 トマス・アクィナス(Thomas Aquinas)は,怠惰を「安息日に正面から背くもの」として十戒の3番目に位置づけた.安息日とは,無為に過ごす時間を確保する制度ではなく,生業にいそしむ労働精神を遠ざけ,精神が神において憩うための措置とアクィナスは考えていた.したがって,無闇に働きまくることも,だらけた無規律な生活も「怠惰」に該当するとピーパーはいうのである.余暇は休暇と等価ではなく,純粋に受動的な状態とみるものでもない.

 形而上学的に世界をとらえる真の「教養」,その活動に従事する認識と行為のうえに成り立ち,真実の余暇は「祝祭と礼拝」によってのみ,成立・発展・成就が得られる,と述べる.本書は,古代ギリシャ哲学と中世スコラ哲学の精神的伝統を引継ぎ,「労働」の概念に含まれている実益への奉仕という側面にするどく対立する余暇機能を理知的に考える.余暇を社会科学のディシプリンでとらえようとする単調なフレームへの警鐘が読み取れる.

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Title: MUSSE UND KULT

Author: Josef Pieper

ISBN: 4061588567

© 1988 講談社