▼『戦争と資本主義』ヴェルナー・ゾンバルト

戦争と資本主義 (講談社学術文庫)

 戦争なくして資本主義はなかった.軍需による財政拡大は資本形成を促し,常備軍の増強は農業,流通,貿易に影響を与え,武器の近代化は製鉄や機械製作,造船,繊維産業の成長をもたらす.そして軍隊の「指導と行動の分業化」が大量生産した画一的人間.豊富な資料と文献で論究する,近代軍隊の発生から十八世紀末にかけて戦争が育んだ資本主義経済の実像――.

 ルクス主義を信奉する著作「社会主義および社会運動」で,ヴェルナー・ゾンバルト(Werner Sombart)は著名となったが,後に「経済体制」としての資本主義の具体的・包括的把握を試みた.第1次大戦後の歴史的動乱の中で体験した階級闘争の現実に失望したゾンバルトは,本書で戦争がいかに資本主義経済に貢献したかを主張している.

 本書の初版は,第一次大戦直前の1913年である.騎士と傭兵の常備軍化,城壁やクロスボウなどの守備技術とそれを破壊するための重火器拡充,口径=規格化の考え方が育っていく中で「資本主義的武器産業の組織者」が存在感を高める.フランスとドイツは国家独占企業で火薬工場が盛んになり,スペインやイギリスは徴兵制と租税で軍事コストを確保した.資本主義的な貪欲の溶鉱炉が,軍備増強と他国侵略であったことが,豊富な資料とデータで説明される.

巨大な購買力を備えた陸軍の活発な影響力がもしなかったとすれば,資本主義が始まるまでに,おそらく百年は待たねばなかったろう

 軍需産業が経済を刺激したことは,その逆よりも波及効果が大きい.その趣旨は,軍需による財政拡大は資本形成を促し,不況時の経済活性化の起爆剤,インフラ投資として常備軍の増強,武器の近代化は製鉄や機械製作,造船,繊維産業の成長をもたらす――軍事ケインズ主義の主張.ゾンバルトの晩年の著作は,彼の個人哲学とナチス政権の反ユダヤ主義が反映されている.最後の著作のひとつ『新しい社会哲学』(1934年)では,社会問題を「民族社会主義ナチス)」思想から分析を加えた.

++++++++++++++++++++++++++++++

Title: KRIEG UND KAPITALISMUS

Author: Werner Sombart

ISBN: 9784062919975

© 2010 講談社