▼『成長の経済学』ポール・バラン

成長の経済学 (1960年)

 第一章 概説 第二章 経済余剰の概念 第三章 独占資本主義下の静止と運動 I  第四章 独占資本主義下の静止と運動 II  第五章 後進性の根本原因について 第六章 後進性の形態学序説 I  第七章 後進性の形態学序説 II  第八章 険阻な上り坂――.

 クライナ出身,フランクフルト大学とベルリン大学ハーバード大学で学び,マルクス経済学者初のテニュアスタンフォード大学)を取得したポール・A・バラン(Paul Alexander Baran)は,独占資本の支配がもたらす斬新な複雑性に対処するため「経済的余剰」の概念を展開した.ポール・スウィージー(Paul M. Sweezy)とともに,バランはこの革新的概念を使って,国家間の後進性の原因を分析した.

 「従属理論」――先進資本主義国の経済発展は,第三世界の低開発と機能的に関連する――と労働価値概念,剰余価値のカテゴリーとの補足的関係を論じている.バランとスウィージーの"資本主義発展の理論","独占資本"は,1950年代に停滞していたマルクス経済学理論に息を吹き返させた.バランとスウィージーは,先進国と途上国の経済発展を分析し,グローバルな相互依存関係を説明する独自の帝国主義理論のなかで「中心=周縁依存理論」(外部に需要の源と,利益の見込める投資先を確保する)を建てている.

今日の低開発諸国への西ヨーロッパ資本主義の侵入は,一方では資本主義制度が発展するためのある種の基礎的前提条件の成熟を不可抗的な力をもって促進させはしたが,他方ではそれと同じ力をもって他の種の基礎的前提条件の成熟を阻害した.西ヨーロッパ資本主義が当該国の,すでに蓄積された経済余剰となお経常的に生み出されている経済余剰との大部分を持ち去ったことは,その国の資本の本源的蓄積に重大な支障をもたらさざるをえなかった.商品流通の拡大や,大多数の農民・手工業者の貧困化や,西ヨーロッパの技術との接触は,資本主義の発展に対して強力な刺激を与えはしたが,またこの発展を強制的にその正常の経路から逸脱せしめ,西ヨーロッパ帝国主義の諸目的に合致するように歪め損わせてしまったのである

 本書は, 独占資本主義下の静止と運動,後進性の根本原因,後進性の形態学序説を詳細に論じ,独占資本主義は,競争資本主義よりも強引に拡大を求めることを論証する.アメリカにおける寡占化の影響,帝国主義による低開発国侵襲と収奪,インド経済を破壊した大英帝国,国際分業における「従属」――低開発経済を分析するために余剰概念を用いていることも見逃せない.いずれの論点も,スウィージーとの友情とディスカッションから触発されなかったものは一つもなかった,とバランは書いている.

 一方,本書からは窺えないが,非米活動委員会(HUAC)聴聞会でバランは共産主義思想を追及され,パージされかけた.このとき,スタンフォード大学の教授たちが非米活動委員会に召喚され,バランを一貫して擁護したために,彼は大学を追われずに済んだのである.いかにイデオロギー的に反体制的であろうとも,当時のアイビー・リーグや州立大学群のなかで,スタンフォードだけは学問の自由を尊重し,学識者の尊厳を墨守したことも忘れるべきではない.

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Title: THE POLITICAL ECONOMY OF GROWTH

Author: Paul A. Baran

ISBN: 9784492310182

© 1960 東洋経済新報社