日米の思惑が交錯した沖縄返還には様々な「密約」が存在したことが,近年相次いで公開された米公文書や交渉当事者の証言で明らかになってきた.核の持込み,日本側の巨額負担….かつてその一角を暴きながら「機密漏洩」に問われた著者が,豊富な資料を基に「返還」の全貌を描き,今日に続く歪んだ日米関係を考察する――. |
政治決定は,暗黙と明確の使い分けにより,公式と非公式が格子細工のように入り組んで実行される.一新聞記者の取材方法が表沙汰になるや,そのこと自体にバッシングが集中する状況を作り上げた国家権力の暴力的矛盾を,澤地久枝も山崎豊子も,滾る怒りを筆に乗せた.
本書でなされているのは,沖縄返還について日米両政府が交わした「密約」文書をめぐる情報公開のあり方について,公文書や証言を駆使して提示する分析.ナビゲーターは,事件により記者としての「腕」をもがれた西山太吉本人である.密約文書をめぐる情報公開訴訟に言い渡された判決「原告完全勝訴」(東京地裁)を受け,西山は,難攻不落と思われていた「壁」に,“情報革命”が起きたと感慨を述べた.
30年余りも「氷河期」の苦汁を嘗めた彼には,「メディアの敗北」とまで表現された本件の転回を期する足がかりを得たと感じられただろう.その帰結は,2014年7月14日最高裁第二小法廷は密約情報開示訴訟上告審判決として上告を棄却.密約の存在を認めながら,文書が存在しないとして棄却密約文書を不開示とした日本国政府の決定を妥当とする判断を下した.
情報犯罪の実体は巨躯であり,日本が負担する在日米軍駐留経費の原型,佐藤・田中・福田の権謀術数の果ての交渉が国益を損なう密約の輪郭を描き出し,政争とスキャンダラスな報道に目を奪われ,本質的外郭をとらえ切れなかった市民側にも,反省すべき点はある.
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原題: 沖縄密約―「情報犯罪」と日米同盟
著者: 西山太吉
ISBN: 9784004310730
© 2007 岩波書店