▼『知事抹殺』佐藤栄佐久

知事抹殺 つくられた福島県汚職事件

 東京一極集中に異議を唱え,原発問題,道州制などに関して政府の方針と真っ向から対立,「闘う知事」として名を馳せ,県内で圧倒的支持を得た.第五期一八年目の二〇〇六年九月,県発注のダム工事をめぐる汚職事件で追及を受け,知事辞職,その後逮捕される.〇八年八月,第一審で有罪判決を受けるが,控訴――.

 事は日本にとってよろしくない.いずれ抹殺する――東京地検特捜部の方針で,県民の圧倒的支持を受けていた福島県知事・佐藤栄佐久は失脚した.既成事実が揃えば,起訴された事件の有罪率は99%に達する.2011年の東北地方太平洋沖地震に伴って発生した原発事故から5年前,2006年9月に佐藤は県知事を辞任,10月23日に収賄罪で逮捕,小菅刑務所に収監されている.収賄罪という判決であったが,収賄金ゼロという奇異は,大きく報道されていない.

 兄弟で経営に関わった縫製会社の資金繰り,所有不動産の売却がゼネコンからの不正な迂回献金となったという検察の筋書きは,売却の評価額の大きさを「獲物」とした.関係者の自殺,家族にも迫る圧力に屈した佐藤の自白とその後の否認は,往生際の悪さを世論に十分印象づけた.原発問題,道州制,大型小売店舗の規制に反対し続けた佐藤を憎々しく思っていた「天敵」は,東電・経産省ライン.

 かりに原発を一基作って,一兆円ほどの規模になったとする.国や電力会社は,一%程度の地元への見返りを考えるという.それが二基ある双葉町は財政的に恵まれているはずで,なぜ,というのが率直な感想だった.

 「原発が本当に地域振興の役に立っているのだろうか」という問題意識から,原発に代わる浜通り地方の新たな地域振興策を考えていた矢先だった私は,ショックを受けた.

 「原発の後の地域振興は原発で」という要望が地元から出てきたということは,運転を始めて約二〇年,原発が根本的な地域振興のためになっていなかったことの証明だった

 プルトニウム中心の核燃料サイクル計画の将来性への不信を訴え,また安全点検のため,東京電力の全ての原発(福島10基,柏崎刈谷7基)の停止を実施した福島の「闘う知事」は,「よろしくない」存在だった.本書は,政治生命を失した当事者による,特捜検察の不公正を記している.佐藤の退任と逮捕後,後任の佐藤雄平知事は所内にプルサーマル型の発電所を建設する計画(3号機)の受け入れを2010年8月に決定した.

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原題: 知事抹殺―つくられた福島県汚職事件

著者: 佐藤栄佐久

ISBN: 9784582824544

© 2009 平凡社