▼『自我の起源』真木悠介

自我の起原: 愛とエゴイズムの動物社会学 (岩波現代文庫)

 本書は,比較社会学の視座から現代社会を考察してきた著者が,生命史における「個体」発生とその主体化の画期的意義を明らかにする.遺伝子理論・動物行動学・動物社会学の成果に向き合いつつ,動物個体の行動の秘密を探り,「自我」成立の前提を鮮やかに解明する.「人間的自我」を究明する著者ならではの野心作――.

 れわれの遺伝子は,われわれに利己的であるように指図する,と述べたリチャード・ドーキンス(Clinton Richard Dawkins)理論を再検討し,遺伝子理論,動物行動学,動物社会学の成果に向き合いつつ,比較社会学の視座から生物の誕生にまで遡って「自我」の成立過程に迫る.

 遺伝子の増殖こそが生物の目的と考えるドーキンスに対し,著者の視点は,「利己的な遺伝子」に反逆するエゴイズムの起源が,時に「利他的」に行動する生物の主体性(テレオノミーtereonomyと名付けている)を形成するというもの.

 著者が提唱する「自我」成立の前提は,純粋に科学的な側面だけではなく,より感情的な領域に触れている.本書のように信仰や博愛精神を入れ込んで説明するなら,「自我」成立の前提は,幻想的で文学的な域にとどまるといえるだろう.

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原題: 自我の起原―愛とエゴイズムの動物社会学

著者: 真木悠介

ISBN: 9784006002053

© 2008 岩波書店