▼『ルバイヤート』オマル・ハイヤーム

 

ルバイヤート (岩波文庫 赤 783-1)

 過去を思わず未来を怖れず,ただ「この一瞬を愉しめ」と哲学的刹那主義を強調し,生きることの嗟嘆や懐疑,苦悶,望み,憧れを,平明な言葉・流麗な文体で歌った四行詩の数々.十一世紀ペルシアの科学者オマル・ハイヤームのこれらの詩は,形式の簡潔な美しさと内容の豊かさからペルシア詩の最も美しい作品として広く愛読されている――.

 バーイー(四行詩)の複数形からなる四行詩集ルバイヤート.その韻律(長音─,単音U)は,【1】─ ─ U U | ─ U ─ U | ─ ─ ─ | ─,【2】─ ─ U U | ─ U ─ U | ─ ─ U U | ─,【3】─ ─ U U | ─ ─ U U | ─ ─ ─ | ─,【4】─ ─ ─ | ─ ─ ─ | ─ ─ U U | ─.以上のうち,オマル・ハイヤームOmar Khayyam)は3番目のものを好んで用いている.

 ハイヤームは,セルジュク・トルコ帝国の首都の天文台長を務め,数学者,天文学者としての功績が名高い人物.本詩集では,豊富なアラビア語彙で短い人生の哀歓,生命の燃焼する一瞬の輝きを謳い上げるニヒリズムが見逃せない.およそ143の詩篇には,後世の詩家の創作も混入しているとされる.しかし,ハイヤーム作が確実視されているものに限ってみても,薔薇,壺,美姫(少年含む)に酒の愉しみを詠うペルシア詩の中で華麗さは随一.

この永遠の旅路を人はただ歩み去るばかり,

帰って来て謎をあかしてくれる人はいない.

気をつけてこのはたごやに忘れ物をするな,

出て行ったが最後二度と再び帰って来れない(「万物流転」)

 ルバイヤートの形式では,第一行,第二行,第四行の脚韻はかならず押韻し,第三行の脚韻は押韻してもしなくてもよいことになっていたという.これは,神秘主義思想(スーフィズム)を親しみやすく伝える工夫がなされた形式.ヘクター・ヒュー・マンロー(Hector Hugh Munro)は,本詩に登場する「酒を酌する少年」からサキ(Saki)を名乗ったという説がある.

 ルバイヤートを日本へ紹介した小泉八雲ラフカディオ・ハーン(Lafcadio Hearn),丸善発行の英詩選集に101篇を収めた上田敏らは,ハイヤームの脱イスラム的な観念を「美の境地」と評価したことであろう.

たのしくすごせ,ただひとときの命を.

一片の土塊もケイコバードやジャムだよ.

世の現象も,人の命も,けっきょくつかのまの夢よ,錯覚よ,幻よ!(「一瞬をいかせ」)

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Title: RUBAIYATO

Author: Omar Khayyam

ISBN: 4003278313

© 1979 岩波書店